第43話 コア

 ギルマスの指示で繭が取り除かれた。

 繭に吸収された人はすぐには消化されないため、何人かを助けることが出来た。

 その中にはギード盗賊団のアジトで保護した女性たちの姿もあった。

 彼女たちが何かを知っていると疑い、レオンたちは始末するつもりだったようだ。


「酷いです……」


 歩く力もないほど疲弊した彼女たちを、ニアは唖然と見ていた。

 その後は二手に別れて行動することになった。

 五階を目指す者と地上に戻る者だ。

 ギルマスやチェノスたち複数のパーティーは五階を目指す。

 チェノスの話ではコアを破壊するということだった。

 それを聞かされた者の中には息を呑む者もいた。

 コアを壊すということは、ダンジョンの崩壊を意味する。

 ライルラスはある意味ダンジョンで栄えた街だ。それがなくなるということは……。

 そして地上に戻るのは副隊長をはじめ、保護した人と拘束した騎士や冒険者たちだ。

 元々の数では騎士たちの方が多かったけど、先の戦いでその数は減っていた。

 僕も何人か殺していた。

 セシリアたちもこの一行と共に地上を目指すことになった。

 僕はというと、ギルマスに誘われて五階に行くことになった。


「ニア、後で会おう。チェノスさんたちもいるし僕は大丈夫だよ」


 不安そうにしているニアに声をかけ、僕は五階に下りた。

 五階は四階までと違い階段を下りると一本道が延び、その先に部屋があった。

 そこにいたのは十体の魔物。ここのダンジョンの主であるデススパイダーに、マジカルスパイダー二体、ソードスパイダー七体だ。


「戦ってみますか?」


 というギルマスの言葉にチェノスたちは頷いた。

 対するチェノスたちは十八人。三組のパーティーで戦う。


「フロー君は見学です。さすがにあれは危険ですからね」


 僕は止められた。

 不満はない。デススパイダーが危険な魔物であることは僕も知っているから。

 それにどんな戦い方をするかを見るだけでも違う。

 知っている、知らない、の差は大きい。次に遭遇することがあるかは分からないけど、目に焼き付けておこう。


「危なくなったら助けに入りますよ」


 ギルマスの言葉にチェノスは苦笑を浮かべ、戦いは始まった。

 結論から言えば、誰一人欠けることなくデススパイダーたちの討伐は終了した。

 その洗練された連携に見惚れるほどだった。

 三組の別々のパーティーなのに、まるで十八人で一組と言われてもおかしくない動きだった。


「大丈夫ですよ。きっとフロー君にも一緒に戦える仲間が現れますよ」


 食い入るようにその戦いぶりを見ていたら、ギルマスがそんなことを言ってきたけどどうだろうか?

 僕は鈍足だ。すぐに追い付かれて……抜かれてしまう。


「では奥に行きましょう」


 ギルマスについていくと、そこには禍々しい水晶が台座の上に浮かんでいた。

 あれがダンジョンコア……?


「皆さん、予定通りでいいですか?」


 僕が魅入っていると、


「ああ、大丈夫だ、です。なあ」


 という会話が聞こえてきた。


「フロー君。コアは破壊すること以外にももう一つ利用方法があります。それを知る者は少ないですけどね。理由はまあ、争いが起こるからです」

「争いが?」

「そうです。特に王族貴族は五月蠅いでしょうね。コアはですね。魔石と同じなんです。吸収することが可能なんですよ。得られる経験値も莫大で、特級の魔物の魔石レベルです」


 その言葉に僕はコアに視線を向けた。

 あれが魔石と同じ?


「まあ、コアは持ち運ぶことが出来ないので、ここまでこられない人は結局それが出来ないんですけどね。あとコアは吸収すれば経験値が、破壊すれば宝箱が手に入るので、お宝を選ぶ人の方が多いんです」


 聞いたことがある。

 コアを破壊して手に入った宝箱からは必ず高価な物が手に入ると。それも一つや二つではなく、結構な数が一度に。


「それで何で今その話を僕に?」

「フロー君にその権利をあげようと思いましてね」


 僕が驚き周囲を見ると、チェノスたちが頷く。その真剣な表情から冗談ではないことが伝わってくる。


「今回の彼らの不正はフロー君のお陰で分かりました。その報酬だと思ってください」

「そうだぞフロー。遠慮するな」

「そうそう、それがあればレベルも上がるだろう?」


 ギルマスに続きチェノスたちも口々に言ってきた。

 いや、吸収前提で話が進んでいるよね。もし僕が貰えるなら確かにそっちを選ぶけど。

 だけど……。


「気に病むことはありません。もうここのダンジョンは破棄することは決定事項です。もし仮に国がそれに対して文句を言ってきたら、冒険者ギルドはこの国から撤退します。一貴族のやったことだと許せば、次が出てくるかもしれませんからね」


 確かに奴隷とはいえ、人の命を私利私欲のために奪うことは禁止されている。

 しかもギーグによれば、わざと罠に嵌め、借金を作らせ、追い込んで、と色々な不正行為をやって奴隷を作っていた。領主に従順に従う商人の、商売敵などに対しても。

 迷ったのは一瞬。

 僕は皆が見守る中、コアに近付くと手を伸ばして握った。


吸収ノイン


 その言葉を呟くと、コアは手に吸収されて消えた。

 そして僕は気を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る