第42話 挟撃

 逃げ出すことも想定していたのだろう。

 僕は剣を構え、背にニアを庇う。

 騎士は無言のまま剣を引き抜くと斬りかかってくる。

 重い一撃だ。

 剣で攻撃を受け止めた横から、もう一人の騎士も斬りかかってきた。

 僕はその攻撃を下がって回避する。

 二人の騎士が僕と戦っている間に、残りの一人がニアを狙う。

 助けに行きたいけどそれを騎士たちは許さない。

 焦るな。

 僕は自分に言い聞かせる。

 まずは目の前の二人を倒す。

 チラリとニアの方を見ると驚いたことに善戦している。

 武器の違いがニアに有利に働いている。あとはたぶん、今までニアが稽古をしてくれた相手がセシリアだったのもあると思う。

 ただそれがどれだけ続くか分からない。

 なら!

 今度は僕から攻撃を仕掛ける。

 剣を振り、打ち合い、躱しを繰り返していく。

 その中であることに気付く。

 僕は確認のために同じ攻撃を繰り返す。

 それを何度かして確信に変わる。

 騎士たちの攻撃は鋭いけど、分かりやすい。攻撃の型が似ているんだ。

 だから相手は二人いるのに、二人と戦っているというよりも二本の剣と打ち合っているという感覚だ。

 そう考え、タイミングをうかがった。


「なっ!」


 そして誘導してチャンスとみたところで一気に勝負をつけた。

 流れるように二人を斬ると、驚きの表情を浮かべた騎士たちは倒れた。

 僕は目の前の騎士二人を倒すと、すぐにニアを助けに走った。

 騎士はニアに集中していて僕の存在に全く気付かず、背後から斬り付けた。

 背中を斬られた騎士は驚き振り返ったところを、ニアの槍が胸を貫き絶命した。


「大丈夫?」


 顔を強張らせているニアに声をかける。槍を持つ手が震えている。

 ニアは深呼吸を繰り返すと、小さく頷いている。

 今は時間がないし、完全に落ち着くのを待っていられない。

 僕はニアの手を取って走りだそうとして……囲まれていることに気付いた。


「フロー、悪いが逃がすことは出来ねえな。俺たちのためにもここで死んでくれ」


 それはライルラスの冒険者たちだった。

 彼らの背後ではまだセシリアたちが戦っている。

 誰一人死んでいないけど、こちらにくることも難しそうだ。

 囲まれてはいるけど、実は出口へと通じる道は塞がっていない。

 けどそれが出来ないのは、弓を構えてこちらを狙っている者がいるからだ。


「なに、あの繭に吸い込まれれば痛みもなく死ねるって話だ。ここで俺たちと戦うよりは、楽に死ねると思うぜ」


 僕はその声を聞きながら、状況を確認する。

 囲まれてはいるけど、まだやれることはある。

 僕はレンタルのポイントを確認する。やっぱり増えている。今はニアとパーティーを組んでいるから。


【習得ポイント 6616】


 複数の魔法の杖をレンタルして崩壊ブレイクさせたら、多くの敵を巻き込むことが出来る。

 その混乱に乗じて走り抜ければ……。

 そう思い魔法の杖をレンタルしようとして、それを目にした。

 管理区域に入ってくる新たな騎士の姿を。


「諦めろ。もうお前は詰んで……」


 冒険者の言葉が途中で止まった。

 新たに現れた騎士たちの体が崩れ落ちたからだ。


「ギ、ギルマス⁉」


 その背後から現れたのはギルドマスターだ。

 その後ろにはチェノスたちの姿もある。


「制圧を」


 ギルマスの姿が掻き消えたと思ったら、冒険者の一人が吹き飛んだ。

 それは一人では止まらない、二人、三人と続く。


「フローぼーっとするな。反撃だ。ニアちゃんはあいつに任せておけ」


 目の前をチェノスたちが駆けていく。遅れて警備隊の副隊長がやってきた。


「任せます」

「フロー」

「セシリアたちの援護をしてくるよ」


 見ればセシリアたちはまだ囲まれているが無事だ。

 僕は副隊長にニアを任せてチェノスの後を追った。

 騎士や冒険者が襲い掛かってきたから反撃した。

 けど僕がチェノスたちに追い付いた時にはほぼ鎮圧されていた。


「貴様……こんなことをしてタダで済むと思っているのか」


 剣を構えたレオンがギルマスと対峙している。

 ギルマスは余裕な様子だけど、レオンは肩で息をしている。


「ギルド本部の決定です。不正の証拠は既に王都のギルドから国王にいっているでしょう。それに……物的証拠がこれだけあるのです。言い逃れは出来ないでしょうね。貴方の方こそこれ以上抵抗するのは止めることをお勧めします」


 敵わないと悟ったのか、意外にもレオンは反撃してこなかった。

 レオンが手をおろした瞬間、横合いから槍が伸びてきた。

 その穂先は寸分たがわずレオンの体を脇から貫いた。


「き、貴様……」


 それをしたのはラルクだった。

 ラルクは涙を流し、


「貴様のせいっす。貴様のせいで!」


 と声を荒げて、槍を引き抜くと何度もレオンに突きを放った。


「よせ、ラルク」


 セシリアがそれを止めると、ラルクはビクリと震えて手から槍を落とすと跪いて両手を地面についた。

 そんなラルクの向こう側には、ベネーナ討伐の時に同行していた剣使いの人が倒れていた。


「すまない。仲間が暴走してしまったようだ」


 セシリアが頭を下げて横たわるレオンに視線を落とした。

 睨み付ける形相で横たわるレオンがそこにはいた。息もしていない。完全に事切れている。


「はあ、本来なら生きて確保したかったのですが仕方ありません。事情を知る騎士たちはまだいるようですしね」


 レオンが死んだことで、抵抗を続けていた騎士たちも諦めたのか投降した。

 それを見た冒険者たちも観念したのか武器を手放した。

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