第39話 ダンジョン・2

 ダンジョンに入ってすぐのところにも騎士の姿があった。

 レオンに気付いた騎士団員は驚いていた。


「秘密にしていたからな。たまにはこうして抜き打ちで回って、しっかり職務を全うしているかを確認するのも私の仕事なんだ」


 レオンの言葉にセシリアは頷き、


「抜き打ちはいやっすー」


 とラルクは悲鳴をあげた。

 ダンジョン内は洞窟と違って室内は明るい。これはダンジョンごとに違うため、松明などの灯りが必須のダンジョンも存在する。


「う、気持ち悪いです」


 ニアはその壁を見て体を震わせている。

 ここのダンジョンの壁は何というかグロイ。血管のように細い管が無数に絡まり構成されている。足場も柔らかく、最初ここにきた時は驚いたことを覚えている。

 歩いていると遠くから声が聞こえてくる。

 その音は徐々に大きくなって、やがてスモールスパイダーと戦う冒険者たちの姿があった。

 僕たちは邪魔をしてはいけないと思いそのまま素通りした。

 戦っていた冒険者たちとは顔馴染みで、僕を見た一人が驚いていたけどすぐに目の前の敵に集中していた。

 一階に出るスモールスパイダーはウルフよりも弱いけど、遠距離攻撃があるから厄介だ。小型だから的も小さくなって攻撃がしにくいのも特徴的だ。

 その分攻撃力が低いから余程油断しない限りは大丈夫だけど、唯一スパイダー系は共通して毒を使ってくるから、被弾が多くて毒状態になると、解毒薬だけでお財布が飛ぶこともあるから油断は出来ない。

 その後も何度か戦っている冒険者の姿を目にしたけど、僕たちは一度も魔物と戦うことなく一階、二階を通り三階へと続く階段に到着した。

 三階以降の入場は不可だけど、意外とダンジョン内で活動している冒険者が多くてちょっと驚いた。

 三階への階段前には騎士が控えていて、レオンの姿を認めると敬礼をした。


「副団長! どうしてこちらへ?」

「ちょっとした視察だ」

「後ろの彼らは?」

「ギーグ盗賊団のアジトの発見者だ。それでダンジョンの見学を希望したから、動向を許可した」

「……大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」


 レオンが頷くと階段の前に立っていた騎士たちは道を開け、僕たちは階段を下りて行った。




「フロー君は、三階は初めてだったかな?」

「はい、以前来た時はレベルが足りなかったですから」


 前回ダンジョンにきたのが何時だったか思い出せない。

 それだけここ最近は忙しく活動していた。ニアと出会ってから特に。

 ……危ないこともあったけど充実はしていたね、うん。


「なら少し戦ってみるか? 危なければ私たちもフォローする」


 三階から出る魔物はソードスパイダーで、ギルドが示す適正レベルは16。現在の僕のレベルは15になる。なったばかりだ。ちなみにニアは……ま、まだ一応パーティーを組める。実際今も一緒に組んでいたりする。

 僕はどうするか迷ったけど戦うことを選んだ。

 これから先、ダンジョンにはお世話になることが多くなると思う。

 それを考えると安全が約束された中で経験を積めることは、僕にとっては利点しかない。

 戦う機会は早速やってきた。

 出た敵はソードスパイダー一体とちょうどいい。

 ソードスパイダーと戦う上で一番注意するところは二本の前脚だ。

 ギルドが入場制限を設けている理由の一つでもある。

 冒険者はレベルが上がるごとに使う武器のランクも上がっていく。

 これがランクの低いナマクラ武器だと、ソードスパイダーの前脚の攻撃を受け止められない。

 僕は剣を構えると正面から対峙する。

 前脚だけでなく吐き出す糸にも注意が必要だ。

 あれは完全に躱す必要がある。

 下手に剣で受け止めると剣が使えなくなる。糸が付着すると切れ味が落ちるからだ。

 ソードスパイダーは止まることなく僕に向かって突進してくる。

 前脚が振られ、僕はそれに合わせるように剣を振り下ろす。

 金属音が鳴り響く。

 手に衝撃が走るけど剣は無事だ。

 力は……相手の方が上か?

 少し押されるけど剣を握る手に力を籠めて押し返す。

 するとそれを感じ取ったのか空いた方の前脚を振るってきた。

 僕は後退しながら手に入れていた力を弱めると、ソードスパイダーの体が右に流れた。

 相手の右側面ががら空きだ。

 僕は攻撃を仕掛けようとして、複眼が怪しく光るのを見た。

 僕は咄嗟に後ろに飛び退くと、それを追うように吐き出された糸が追ってくる。

 慌てて回避行動を取った先には、ソードスパイダーが待ち構えていた。速い、先回りされた⁉


「フロー⁉」


 ニアの叫び声が聞こえたが、僕は慌てていない。

 ソードスパイダーとの実戦は初めてだけど、どう戦うかは知っている。嫌というほど聞かされていた。

 僕は着地と共に腰にあったホルダーに差していたナイフを二本、左手の指に挟むとそれを投擲した。

 ソードスパイダーは慌てることなくそれを二本の前脚で防いだけど、その時には僕もナイフを追うように前に出ていた。

 両脚が塞がっていたソードスパイダーは糸を吐くことで牽制をしようとしたけど、僕はそれをレンタルで呼び出した鉄の剣を盾にすることで回避する。

 そして勢いを殺すことなく接近した僕は、ソードスパイダーの胴体を剣を突き出して貫いた。

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