第38話 ダンジョン・1
「ダンジョンに?」
朝食を食べ終わったところで、ダンジョンに行ってみないかとセシリアに誘われた。
行き先は四階、か……。
「ああ、何でもラルクがレオン殿と話したようでな。勝手に決めてきたんだ」
セシリアがため息を吐いてラルクを見た。
僕もラルクを見たが元気がない。
きっと散々怒られたんだろうな。それもかなり入念に。
今までもセシリアに注意されることがあったけど、常にノーダメージだったのに今日はしっかり効いているみたいだ。
朝会った時にどうしたんだろうとは思っていたけど、そんな理由があったのか。
ニアも行くことになっているみたいだ。
正直迷う。
今行くなんて何か裏があるかもしれない。
けどニアのことは心配だし……。
「……ギルドに相談してもいいですか? この時期は一応許可がないとダンジョンには行けないことになっているんです」
僕はギルドの決定を破るとペナルティーを受けることを話した。特に三階以降は入場制限がかけられていることを。
これは本当だけど、チェノスたちから何処かに行く時はギルドに報告するように言われている。
直接チェノスたちと話すと目立つからとのことだ。冒険者が一緒にいてもおかしくはないけど、念のため警戒は必要だと。
何処に警戒される要素があるか分からないけど、忠告だし素直に従うことにした。
ギルドの人に言えば僕の行動はギルマスに伝わるみたいだからね。
もっともあの一件以来、チェノスたちの姿を見ていないけど。
「いいだろう。出発は……明日だったか?」
「そうっす」
セシリアの問いかけに、ラルクが小さな声で答えた。
僕は頷き、朝食を終えて少し待ってからギルドに向かった。朝は混むからね。可能ならシエラさんに報告するようにも言われていたし。
「あ、フロー君。どうしたの?」
僕はギルドの四階に行くことを伝えたら、騎士団から既に話が伝わっていたようで許可がおりた。
「大丈夫なの?」
「……ハイルさんたちも一緒だし大丈夫ですよ」
セシリアたち一行の中でシエラが知っているのはニアとハイルだけだからね。
ニアと一緒だからだと逆に困惑されそうなので、ハイルの名前を出した。
ハイルの腕がいいのはシエラも知っている。
シエラは他にも何か言いたそうな顔をしていたけど、僕は後ろに並ぶ人がいたから急いで受付から離れると、ダンジョンに行く準備をすることにした。
「緊張しているのかな? 何、私たちもいるし、セシリア殿たちもいる。軽い気持ちで行くといい」
今回も騎士団の利用する馬車で移動した。
「レオン殿。仮にもダンジョンだ。聞いた話ではダンジョンとは危険な場所なのだろう? そのような心構えでは困るのだが」
「これは失礼。セシリア殿の言う通りだな。何度もきていて慣れているから警戒心が薄れていた様だ。皆、気を引き締めろ」
レオンの言葉に随行する騎士団員たちが頷く。
今一緒にいるのは五人だけで、ここまで一緒にきた残りの人たちはライルラスに到着したその翌日にはダンジョンに向かったそうだ。
「あの、あの人たちは元気でしょうか?」
そんななか、ニアがレオンに保護した女性たちのことを聞いていた。
「もちろんだよ。彼女たちからは出来ることを聞いて、それぞれ仕事を紹介してそこで働いて貰っている。そうだな……ダンジョンから戻ったら顔を見せてやったらどうかな? きっと彼女たちも喜ぶだろう」
レオンが笑みを浮かべながら言った。
「は、はい。そうします。ありがとうございます」
ニアは頭を下げると、小走りにこちらにやってきた。
「どうしたの?」
そのニアが袖を掴んできたから、小声で尋ねた。
「……ううん、ちょっと怖いって思ったから……」
厳ついってことはないけど、確かにレオンは威圧感が半端ないからね。
セシリアならともかく普通の女の子では怖いと感じる人はいるかもしれない。
そういえば保護した人たちも、レオンに……騎士団の人たちに怯えていた気がする。
ギーグたちに攫われて酷い目に遭っていたから、男性が苦手になったのかもしれない……けど、アジトから一緒に戻ってきた時はそんな感じなかったような気がしたんだけどな。
ライルラス近くにあるダンジョン……通称蜘蛛の巣は、スパイダー系の魔物のみが出るダンジョンだ。
出る魔物はスモールスパイダー、スパイダー、ソードスパイダー、マジカルスパイダー、デススパイダーの五種類だ。
この中でデススパイダーは五階にあるダンジョンコアへと続く部屋にのみ出現する、いわゆるここのダンジョンのボスだ。
ダンジョンはコアを破壊すれば、やがて消滅する。
ダンジョンは魔物が増え過ぎるとダンジョンブレイクを起こすため、定期的に一定数の魔物を狩る必要がある。
一説では魔物を狩ると次に魔物を生み出すためにダンジョンがエネルギーを使うため、それを繰り返していればダンジョンブレイクも起こらず、ダンジョンも成長しないと言われている。
事実ダンジョンからは豊富な資源が採れるため、そのように活用する国、街は多い。
ここのナーフ領のライルラスもそうだ。
ダンジョンの周囲には、ダンジョンを利用する冒険者をはじめ、その冒険者を相手に商売する商人たちが集まり、宿が出来、店が出来、小さな町が形成されている。
今は規制がかかっていて人が少ないかと思ったけど、そんなことはなかった。
冒険者の代わりに騎士団が在中し、領主からの直接の依頼を受けた冒険者たちもいるからだ。
活気のある街中を通り過ぎ、僕たちはダンジョンに入って行った。
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