第37話 吐露

 ライルラスの街に到着した翌日。セシリアたちは馬車の状態を見に行き、ニアは希望して宿屋の手伝いをすることにしたみたいだ。

 僕はというとギルドに顔を出し、鍛練所で少し体を動かすことにした。馬車旅では殆ど体を動かすことが出来なかったからね。

 ハイルがセシリアに言われて僕についてきたから二人で剣を交えていると、チェノスたちが現れて軽く体を動かすはずが、ハードなトレーニングになった。


「あんた強いな。それにフロー、また腕を上げたんじゃないか? もう俺よりも強えかもな」


 それは言い過ぎだと思うけど、僕のことを良く知っているチェノスに言われると嬉しさもひとしおだ。自信を失っていたから余計にね。


「フロー久しぶりの再会だ。ちょっと話そうぜ。ハイル、この後こいつを借りるがいいか? ちょっとメリッサさんのことで相談したいこともあるしよ」


 チェノスが頬を赤らめながら言った。

 ニアがすると可愛いけど、おっさんがそんな顔をしてもね。

 チェノスの仲間たちが囃し立てている。

 ハイルもそれで察したようだ。

 もしかしたらニア経由で事情を聞いているのかもしれない。

 ……いや、ニアはそんなこと言わないか。きっとチェノスとその仲間たちの態度で理解したんだろう。


「では私は先に帰るとします」


 ハイルと別れた僕たちは、ギルドの一室に移動した。

 防音の効いた特別な部屋だ。

 えっ、そんな重要な話をするの? まさかメリッサに告白するとか? チェノスは悪い人じゃないから応援はするけど、手伝えることなんてないよ?


「でっ、何を悩んでいるんだ?」


 色々と考えて身構えていた僕に、チェノスが発した第一声はそれだった。

 僕が何を言っているのか分からず首を傾げると、


「おいおい、お前と会って何年経ったと思ってる? お前が悩んでいるのは一目見て分かったぞ?」


 とチェノスが言ってきて、同席したパーティーメンバーたちも真剣な顔で頷いている。

 そうなのかな? いつもと変わらないと思うけど。

 確かにチェノスの言う通り悩みはある。マグリノのしていることに対してだ。


「俺たちの仲だろ? それとも信用出来ないか?」


 チェノスと会って約一年。それが長いか短いか分からない。

 けど色々なことを教わり、助けて貰い、接していてチェノスたちがどういう人かも分かっている。

 たぶんチェノスたちになら話しても大丈夫だ。

 彼らはこのことを聞いても秘密にしてくれると思う。

 それどころか逆に手を貸してくれるかもしれない。

 けど自由が身上の冒険者でも、領主に楯突くのは難しい。それは元貴族であったからよく分かる。


「……それは言えない」


 結局巻き込むことは出来ないと判断し、僕は黙ることを選択した。


「はん、餓鬼が何を遠慮してる。気遣いは無用だ」

「そうだぞ、フロー」

「止めろよチェノス。もしかしたらニアちゃんと別れることが辛いだけなのかもしれないんだぞ?」

「おっと、そういうことだと俺たちは力になれねえな」

「違うよ」


 思わず反論していた。顔が赤くなったのは仕方ない。そのことについても少し悩んでいたから。


「なら何を悩んでる? お前のことだ、生半可なことじゃないだろう?」

「……聞けば後悔するよ」

「聞かないと後悔する。なあ?」


 チェノスの言葉に他の人たちも頷いている。


「分かったよ。どうなっても知らないからね」


 僕もチェノスたちと一年間接したから分かる。

 今のチェノスたちは話すまで一歩も引かないことを。


「……まじか」


 僕が話し終えると、さすがにチェノスたちも最初は驚いていた。


「けど納得も出来るな。何であんなに奴隷が必要で、生存者が少なかったのかも」

「チェノスさんたちは不思議に思っていたの?」

「まあな。俺たちは長いことこの街にいるわけだしな。ダンジョンにも数え切れないほど足を運んでいるしよ。そうか……それでその証拠はあるんだよな?」


 チェノスたちはダンジョンの四階まで進んだことがあるんだった。

 あそこのダンジョンは五階構造で、素材を回収している部屋は四階の一角にある。魔物の強さも良く理解している。

 それを踏まえての感想なんだと思う。

 僕はマジックリングから手帳を取り出して渡した。


「ならギルマスに相談するのがいいな」


 パラパラと手帳を捲りチェノスは言った。

 一目見て顔を顰めていたから、読むのは諦めたんだと思う。


「ギルマスに?」


 僕の反応を見てチェノスは苦笑を漏らした。


「フローは駄目なところばかり知っているから仕方ねえけどよ。ギルマスは凄いんだぜ?」


 元々ここのギルドマスターは冒険者だったらしく、若い頃チェノスたちも散々お世話になったそうだ。

 皆呼ばなくなったけど、二つ名もあるって言った。


「普段駄目な風を装ってるのも、無能を演じて相手に警戒させないためだ。それこそこういう事態に備えてな」


 僕がチェノスの言葉に首を傾げていると、


「とりあえずフローは今まで通りに過ごせ。これからは大人の仕事だ」


 と言って、簡単な打ち合わせをして僕はメリッサの宿に戻った。

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