第36話 腕比べ
◇ ???・2
「なるほど。君たちの要求は分かった」
「何処かいい場所はあるっすかね? あと確実に実行したいっすから、手を貸して欲しいっすね」
おいらの言葉に男は腕を組む。
待たされるかと思ったけど、答えはすぐに返ってきた。
「一つだけ心当たりがある。ただそろそろ収穫も終わる。急いで移動する必要があるな」
「へー、それって何処っすか?」
「ダンジョンだ。我々としても材料が増えるならそれに越したことはない」
材料がどんな意味を持っているか分からない。が、ダンジョンなら証拠を消すのは楽だ。
本当なら死んだ証拠を持って帰れればと思うけど、あれが死んだかどうかの確認方法は他にもあるし、それでいいとしよう。
「これを機に色々と交流を深めていきたいとこっすね」
「……それは確認しておこう」
それなりの立場であるけど、独断で決定は出来ないのは分かる。
個人的には受けて貰えると助かる。
他国に足場を作ることのメリットは大きいし、組織内のおいらに対する評価も上がる。
「そういえば、ただ殺すだけでいいのか?」
「んー、せっかくだしぐちゃぐちゃにしてもいいっすよ?」
おいらの言葉に男は嗜虐的な笑みを浮かべた。
高貴な者を自由に出来る……それはある意味甘美な言葉だ。
あの女は反対するかもだけど、従わせる術はあるから大丈夫だ。
反抗する気があるなら、そもそもここにはいない。
あの女にとって一番大事なのは……。
◇◇◇
「忙しくしているところ悪いが、一戦お願い出来るかな?」
ラルクたちが帰ってきた翌日。拠点で発見した物についての説明を受け、それが終わった時にレオンから模擬戦を頼まれた。
「ギーグは私の元部下でね。当時目をかけていた一人だったんだ。盗賊になってからのことは分からないが、あの時は確かに強かった。それで少し興味があってね」
断ることが出来ない雰囲気だったため、僕は受けることにした。
騎士になるような人がどれぐらいの腕か気になったのもあった。
けど戦う直前になって、一緒についてきたハイルが僕のもとにやってきて、
「全力を出さずに戦いなさい」
と耳打ちしてきた。
僕はその言葉に戸惑ったけど、それを守って戦うことにした。
結果はレオン他、十人の騎士団員と模擬戦をやったけど、戦績は散々だった。一勝も出来なかった。
確かに領主直属となるだけあって誰もが強かった。
それでも全力を出していたら勝てた人も間違いなくいたと思う。
「ありがとう。確かに筋はいい。君はまだ若いし、精進し続ければきっと強くなれる」
模擬戦の後にギーグとどんな風に戦ったかを聞かれたから、腕利きの冒険者パーティーに警備隊の副隊長との連戦を終えたギーグと戦ったことをそのまま話したら、妙に納得していた。
騎士団員たちが去った後に、ハイルに戦う前に何であんなことを言ってきたか聞こうとしたら、
「私たちも戻りましょう。セシリアたちと合流して旅の準備をしないとです」
と言われて、その話はうやむやになった。
レオンの話では、出発は明日。騎士団から専用の馬車を用意してくれるとのことだった。
これは僕たちがライルラスに行くことを知ったレオンが、自分たちも所用でライルラスに行くから一緒に乗って行かないかと誘ってくれたからだ。
騎士団の馬車は特別仕様だから速く、またタダとのことだ。
今の稼ぎからだと乗合馬車の代金は微々たるものに感じるけど、節約出来るところは節約したいと思っていたから素直に嬉しい。
街中の雑貨屋でニアたちと合流した僕たちは、旅に足りないものをそれぞれ購入して一度ニアたちの泊まる宿に向かった。
今回の戦利品をどう分けるか話し合うためだ。
盗賊のアジトで発見されたものは規定通り全て発見者の僕たちのものになったけど、なかには僕たちが使いそうにないものもある。
その辺りはラルクとエイルが交渉して、必要なさそうな物は買い取って貰いお金に変えたそうだ。
僕は魔道具の中から魔法のテントと魔石を希望した。
魔導コンロと迷ったけど、この魔法のテントはソロ活動する時に重宝すると思ったからだ。
いや、組めそうな人がいたらパーティーは組むつもりだよ?
魔法のテントは実際の大きさよりも内部が拡張されていて複数人で利用出来るし、外敵を近寄らせない効果があるんだよね。
その意見は通り、追加でお金までくれたのには驚いた。
「あって困ることもないだろう? 少ないがニアを助けてくれたお礼だ」
とセシリアは言っていた。
翌朝僕たちは騎士団の馬車に乗り込み、ライルラスを目指した。
その同行者の中に盗賊のアジトで保護した女性たちの姿もあって驚いた。
「身寄りがないらしく、アジトの近くにある街で住むのも嫌だと相談されてな」
レオンからはそう聞いた。
騎士団が使う馬車は高性能で、厳しい行軍にも耐えられるように鍛えられた馬を使役していることもあって、乗合馬車を利用するより早くライルラスの街に到着出来た。
レオンたちはそのまま騎士たちが街を回る時に使用する公舎へと向かい、僕たちはメリッサの宿屋を訪れた。
メリッサの宿は料理が美味しくて人気があるから空いているか心配だったけど、どうにか泊まることが出来た。
僕の部屋は相変わらずそのままだったようだ。
私物は全てマジックリングの中だから、遠出する時は空けておく必要はないと言っているけど、メリッサは頑なにここを誰かに使わせない。
「帰ってこられる場所があるのは嬉しいものですよ」
と決まって言われる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます