第34話 保護

「お、なんか発見っすよ」


 それは先ほど僕が調べた壺で、ラルクが興奮しながら壺が二重底になっていたことをしきりに説明してきた。


「全然分からなかった」

「ふふん、フローはまだまだっすね。これに気付けないとは修業が足りないっす」


 ドヤ顔のラルクだったけど、急に慌てだすと、


「ま、まあ見所はあるっす。フローはこれからっすよ」


 と目を泳がせて態度を急変させた。

 先ほどまでラルクの視線の向いていた方を向けば、ニアがぷっくりと頬を膨らませていた。

 睨んでいるけど迫力がないのは元々のニアの雰囲気のせいかも。ちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。


「んー、どうもここは盗賊のアジトみたいっすね。ここにあるのは盗品みたいっすよ」


 ラルクが見つけた書類のようなものをパラパラと捲り言った。

 とりあえずどうするかはセシリアの指示に従うことにして、何も手を付けず戻ることにした。

 ラルクも書類を壺の中に戻していた。




 僕たちが合流した時、セシリアたち以外にも人がいた。


「セシリア、その人たちは?」

「うむ、奥の部屋にいた。彼女たちは盗賊に連れ去られた人たちらしい」


 視線を向けると疲弊した様子はあったけど、外傷などはないように見える。あくまで衣服の上からの判断だけど。

 彼女たちの話によれば、盗賊たち……やはりギーグ盗賊団らしいけど、彼らがここを後にしてから既に何十日も経っているそうだ。


「その間自由だったんすよね? 逃げようとは思わなかったっすか?」

「その、いつ彼らが戻るか分からないですし、ここが何処かも分からないですから」


 彼女たちはここに連れてこられて、身の周りの世話など色々なことをさせられていたそうだ。

 盗賊たちがいない時は今までもあったけど、一度隙を見て逃げようとした時に見つかって、酷いことをされてからはこの洞窟から一歩も出たことがないと言った。


「外には魔物がいるって聞いていましたから……」


 少なくとも従順にしていたら命だけは助かったから、結局ここに留まることを選んだみたいだ。


「……一度ナーフに戻って報告した方がいいかもしれないな。ラルクはどう思う?」

「それがいいっすね。色々盗品もあったし、下手に手をつけると何が起こるか分からないっすからね」


 盗賊が溜め込んだものに関しては、基本それを発見した冒険者たちの物になる。

 ただ今回の場合は数が多過ぎて、全てを持って帰るのは難しい。

 僕たちを襲ったギーグたちは既に死んでいる。

 あの襲撃事件から経った日数を考え、今まで誰も戻ってきていないということを考慮し、他に生き残りはいないと判断して現場保全を優先することになった。

 貴重な魔道具だけでも回収した方がいいと思ったけど、


「私たちは他国の旅の人間だからな。あらぬ誤解を招かないためだよ」


 とセシリアは言った。

 ナーフの領主がギーグの言った通りの人間なら、これらを自分の物にしようと冤罪をでっち上げる可能性もなくはないか?

 その後は彼女たちを連れてナーフを目指したけど、体の弱っていた彼女たちには辛い道のりになった。

 そのため行の時の倍近い時間を要して荒野を抜けて、ベネーナの住む沼地を越えた。

 彼女たちがいたから少し沼地から離れた場所を通った時、それに気付いたベネーナが僕たちの前に姿を現したけど、一目見て退散していった。

 どうやらまだ僕たちのことを覚えていたようだ。意外と頭がいい?

 ベネーナを見た彼女たちは顔を引き攣らせて震えていたけど、魔物に慣れていない一般人なら仕方ない反応だ。


「ありがとうございます」


 食事を渡すと、彼女たちは頭を下げて、それをゆっくりと噛みしめて食べていた。

 それは盗賊たちがいなくなり、食料の補充がなかったため必要最低限の量を食べて生き繋いでいたそうだ。

 最初見た時に疲弊していたのは、そのような事情もあったみたいだ。




 結局森で一晩過ごし、翌朝出発した。


「止まれ!」


 その途中、セシリアの声が響いた。

 エイルは弓を構え、ラルクたちも武器を手に持ち警戒している。

 数秒後、木を掻き分け姿を現した者たちがいた。

 あの鎧……ナーフ騎士団だ。


「私はナーフ騎士団所属、副団長のレオンだ。君たちは?」


 男は良く通る声で名乗った。

 後ろには同じ鎧を着た者が三人いる。

 副団長……ギーグの記憶にあった人だ。


「私たちは冒険者だ。ベネーナ討伐依頼の帰りだ」

「ベネー……ナ?」


 レオンの目は僕たちを順に見ていき、ニアで一度止まり、最後保護した女性たちに注がれた。


「何か事情がありそうだな」

「うむ、事情を話そう。だがその前にお互い武器をおろそうじゃないか」

「それがいいだろうな」


 レオンが手を挙げると、木の向こう側からさらに三人が、右手側の木の影からも二人が姿を現した。

 気配を完全に消していたようで全く気付けなかった。

 いや、目の前のレオンたちが発する気配が強過ぎてそちらに意識を取られていた。

 新たな騎士が姿を現すとセシリアも手を挙げ、エイルたちも武器をおろした。

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