第32話 探索
「ニア、何をそんなに驚いている?」
「あ、その。ププルが……毒を扱えるようになったって言っているんです」
「言っている? ププルは話せるのか?」
「話せるというか……なんとなく考えていることが分かるんです……」
「ふむ、そうなのか? けど毒か……ベネーナを吸収して覚えたということか? いや、まあ酸による攻撃の方が脅威そうだがな」
セシリアの言う通り酸による攻撃は強力だった。
ゴブリンがのたうち回っていたのを思い出し思わず身震いした。
あんなのが降り注いだら……回復薬で治るとは思うけど、その時に感じる痛みは本物だしね。
ラルクも僕と同じことを思い出していたようで、目が合うと眉間に皺を寄せて深く頷いた。
あと今後スライムには注意しようと思った。あまり遭遇はしないけど。
「それよりこれからどうするっすか? ここで一泊するか、それとも出発するかっす。個人的にはさすがに疲れたっすから、今日はここで休みたいっすよ」
「うむ、そうだな……フロー君はどうしたらいいと思う?」
気を遣ってくれているのか、セシリアはよく僕に意見を尋ねてくる。
「僕ですか? 僕は……出来たらこの周辺を探索したいです」
「探索?」
「はい、ここって人があまりこないじゃないですか。だから何か珍しいものとかないかな、って」
半分本当で半分は嘘だ。
一番の目的はギーグ盗賊団の拠点を探しに行くことだ。
「おー、いいっすね。人がこないってことは、もしかしたら薬草とかもたくさん採れるかもってことっすよね? ププル先生、そのお力で一つお願いします。これで大金持ちっすよ!」
ラルクの言動にセシリアが青筋を浮かべているけどいいのか?
「……はあ、食料もあるし少し探索をしてみるか。戻ったらナーフともお別れだしな」
結局セシリアは怒ることなくラルクの意見を聞き入れた。許された様だ。
この時ばかりはラルクに僕は感謝した。
翌朝僕たちは沼地に近付いたけど、ベネーナは現れなかった。
違う。一応沼の中から顔だけを出してこちらの様子をうかがっていた。警戒でもするように。
結局僕たちは襲われることなく沼地を通り過ぎて、その先に行くことが出来た。
ラルクがせっかくだから沼地の向こう側に行こうと言ったからだ。
「勘がいっているっす。あの先にお宝があるっす!」
手を掲げて自信満々に言っていたけど、誰も反応しないで食事を摂った。
無視されたラルクの肩を落とした後姿には哀愁が漂っていて、心優しいニアは声をかけようとしたけど、セシリアが顔を横に振って止めていた。
うん、僕もそっとしておいた方がいいとあの時は思った。
それでも食事が終わって行動を始めると、ラルクは先ほどのことがなかったかのように普段の調子に戻っていた。
セシリアはそれが分かっていたからそっとしていたのかな?
沼地を進んだ先は森になっていて、そこでは薬草も採れたし、見慣れない木の実や果実、キノコ類もあった。
一応採取したけど食べられるかは帰ってから確認かな?
「森を抜けた先は岩山っすかー」
「この辺りはギルドでも情報は少なかったな、確か」
セシリアの言う通りかなり古い資料が少しだけ残っていた。
不毛の地で、開拓するには不向きとあった。
さらに沼地にベネーナが住み着いたことで、ここにくる人はいなくなったとのことだ。
確かに見渡す限り草木一本生えていない。ゴツゴツとした大きな岩が転がっているのが見えるだけだ。
本当にこんなところに盗賊団の拠点があるのだろうか?
いや、こういうところだから逆に隠れ蓑として使えるのか。
ギーグがいれば、ベネーナを撃退することは出来そうだし。幹部たちも強い。本当、良く倒せたと思う。
「ん? 旦那、どうしたっすか?」
僕が目を凝らして周囲を見渡していると、ラルクがエイルに声をかけた。
「……あそこに何かある」
指をさす方を見たけど、遠くに岩山が見えるだけだ。
「それは本当か?」
セシリアの問いかけに頷いている。
「おいらにはさっぱりっすけど、旦那が言うなら何かあるかもっすね」
ラルクの言葉に、ニア以外の人たちも頷いている。
「詳しくは分かるか?」
聞かれたエイルは、右手の人差し指と親指で丸を作ると、左目を閉じて右目でそこを覗き込んだ。
「……岩山の中腹に穴がある」
「洞穴か? そこには行けそうか?」
「……たぶん」
「なら行ってみるか……長いこと人が踏み入れていない地だ、魔物が巣くっているか調査した方がいいだろうしな。他には気になるところはあるか?」
「……ない」
「うむ、なら案内を頼む」
セシリアの言葉にエイルは頷くと、先頭を歩き始めた。
その次にセシリアとラルクが続き、僕とニアはその後ろに、最後列に残りの二人が並んだ。
岩山の中にある洞穴。ギーグの記憶に確かそのような光景があった。
他には特に気になるところはないというし、そこがアタリかもしれない。
ならそこで僕がすることは……ギーグが密かに集め、隠し持っていた領主の不正の証拠を見つけることだ。
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