第31話 万能

「一度退くぞ」


 セシリアの指示で、僕たちは縄張りから離れた。

 ベネーナは撤退する素振りこそ見せなかったけど、その頃になると積極的に前に出て攻撃する個体は減っていた。

 確かギルドからそのような行動を取るようになったら退くのが望ましいと説明を受けた。

 この状態になると、一度縄張りから離れて再度入っても、襲い掛かってこないとのことだ。

 これはあくまで戦闘から時間が経っていないことと、ベネーナと戦っていた冒険者なら、という注釈が入る。

 だから僕たちが離脱した後に別の冒険者が縄張りに足を踏み入れると、ベネーナは現れて襲ってくることになる。


「大丈夫だと思うが、とりあえず使える素材がどれだけあるか確認したいな。ニア」

「はい、ププルお願いね」


 今回もププルの回収は大活躍だった。

 ププルがベネーナを吐き出し、いくつかの山を作る。

 後で分かったことだけど、これは回収可能な素材別に仕分けしていた。

 例えば魔石や毒袋他、全ての素材が無事なもの。魔石が砕けているもの。毒袋が傷付いて素材が全て駄目になっているもの等々。


「かなりの数を回収出来たようだな」

「これで大金持ちっすね」

「お前はたくさん駄目にしたみたいだけどな」


 セシリアの冷静な言葉に、男たちは笑っている。

 気心が知れた仲間たち。そんないい雰囲気があった。

 セシリアも別に責めているわけではないようだしね。

 ちょっとだけ疎外感を感じたのは、今回の討伐であまり良いところがなかったというのもあった。

 レベルが順調に上がり、ギーグを撃退した。

 ナーフに来てからも様々な魔物を狩り、誘導香の効果とププルの援護もあったけど、初めて上位種をこの手で倒すことが出来た。

 けどベネーナと戦った結果は散々だった。

 初めて戦ったのは確かだけど、それをいったらセシリアたちだって同じだ。言い訳にならない。

 相性の問題は確かにあったけど、セシリアは普通に剣で討伐していた。

セシリアと僕とじゃ技量にかなりの差はあるけど、それでも悔しかった。


「それでフロー君。ベネーナの解体だが……」


 僕はセシリアに声をかけられてハッとして顔を上げた。

 確かにこのまま持ち帰ると驚かれる。数が数だ。

 どうやって運んだと聞かれたらマジックリング……アイテム袋と答えることになるけど、これだけの量を収納出来るとなると間違いなく目立つ。

 一時的にププルに預かって貰うのも手だけど、他の人にププルの存在を知られるのは避けた方がいい。

 それは僕だけでなくセシリアたちも同意見だ。

 解体すれば不要なものはここで処分出来るから量は減るけど……。

 一応ギルドで解体の方法は調べたけど、問題は毒袋だ。下手に解体する時に傷付けると、せっかくの素材を駄目にしてしまう。

 それを考えると手数料は取られるけどそのまま納品した方が確実だ。

 僕が悩んでいると、ププルがピョンピョンと跳んだ。


「ププル、出来るんですか?」


 ニアの問いかけに、ププルは頷いているように見えた。

 僕たちがどうするか迷っていると、ププルは痺れを切らしたのか一体のベネーナを呑み込んだ。

 皆の視線がププルに注がれて、なかでもニアはオロオロとしている。

 ププルはフルフルと震えていたけど、しばらく経った後に突然いくつかのものを吐き出した。

 魔石、皮、毒袋に肉……必要素材に綺麗に分けられている。


「ププル凄いです」


 ニアがププルを拾い上げると、掌の上でクネクネしている。

 ゴブリンの解体にウルフの解体、果ては薬草の採取。最早パーティーに一体は欲しい人材だ。


「他も任せて大丈夫ですか?」


 ニアの言葉に掌から飛び降りると、残りの……毒に汚染されたものを残して解体をしていく。

 不要なものはププルが消化しているのか、一切ゴミが出ない。


「それじゃフロー君。アイテムの半分を頼むよ」


 セシリアに頼まれて僕はマジックリングにアイテムを収納する。

 残り半分はセシリアたちが持って帰るけど、ギルドに戻ったら人数分でしっかり報酬は分けることにしている。

 肉などの腐る恐れのある物に関してはププルが保管する。

 完全に劣化を防ぐことは出来ないけど、それでも僕たちが保管するよりも持ちが良いみたいだからね。本当に凄い。

 僕は魔石が欲しいから、お金の替わりに魔石を多めに貰っているけど。


「それで残りはどうしますか?」


 残ったベネーナの死体は七体。これは全て毒袋を打ち抜いているため素材としての価値がない。魔石すら汚染されて使えない。吸収してレベルは上げられるそうだけど、もれなく毒の状態異常にかかる。

 その解毒薬でお財布は大打撃になる。


「燃やすしかないな」


 セシリアの一言で、燃やすことにはなったけど準備が必要になる。

 素材は駄目になっているけど、表面のぬめりはそのままのため乾かすか水で洗い流さないと火が通らない。

 ベネーナが生きた状態だと水でぬめりは落とせないけど、死んだ状態なら出来る。

 そう思い準備に取り掛かろうとしたら、ププルがベネーナの死体の上に乗った。

 その上で再びピョンピョンと飛び跳ねると、ププルがベネーナを再び呑み込んでいく。

 先ほどと違うのは、吞み込んだ後にププルの体の色が変化しているところだ。

 普段の水色から緑色に、さらには紫色に変化している。最後にはピカピカと光っているのだけど大丈夫か?

 僕たちはその様子をただ眺めていることしか出来なかったけど、やがて明滅していた光も止まり、色も元の水色に戻った。


「ププル、大丈夫ですか? 痛いところはありませんか?」


 ニアが身を屈めて尋ねると、ププルは跳び上がりニアの肩に乗ると、頬に体を摺り寄せていた。


「えっ、それは本当ですか?」


 そしてニアは驚きの声を上げて、ププルはフルフルと震えていた。

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