第30話 ベネーナ討伐
「……では狩り方だが……」
セシリアの声に僕は耳を傾ける。
今回受けた依頼では、毒袋の納品数は五つとなっていた。
これはあくまで最低数で、多く納品する分は買い取ってくれる。
僕たちが一番懸念しているのは、近頃依頼を受ける人がいなかったから、ベネーナの数も増えているかもしれないというところだ。
その場合は数を減らすことを優先に倒す予定だけど、減らし過ぎると素材の回収が出来なくなるかもしれないから加減が難しい。
数が減ると沼地の奥深くに逃げるという習性もあるようで、そうなると一定数に戻るまで姿を隠してしまうらしい。
この辺りの安全のためにはそこまで狩るのが一番だけど、毒袋のためにそれが出来ないようだ。
だからここに来る人は、基本的に毒袋の依頼を受けた人だけになる。
……ギーグがこの先に拠点を選んだのはそういう理由もあったのかもしれない。
「では行くぞ。ニアは私の後ろから攻撃を!」
今回はセシリアも盾を持ち、ニアと組んで戦う。セシリアが守り、ニアが攻める。ラルクはもう一人の盾持ちと組むようだ。
僕ともう一人の剣使いは、援護に回りつつ余裕があれば倒すのが仕事だ。エイルも同じだけど、どちらかというと攻撃主体で動くみたいだ。
そして沼地に……聞いていた縄張りに入ると沼に沈んでいたベネーナが次々と姿を現した。
ベネーナの攻撃方法は主に三つ。一つ目は舌による攻撃。これは鞭のように使ってきて、絡め捕られると抜け出すのが大変という話だ。粘液でベトベトしていて気持ち悪いらしく、締め付けられるとそれがトラウマになる人もいるとか?
二つ目は後肢によるキック。脚力が強いのもあって、その一撃は当たり所が悪いと致命傷になる。脚力が強いため機動力もある。。
最後が毒による攻撃。これは単純に毒を吐き出す攻撃が一つ。これは強力だけど躱すことで被害を防ぐことが出来る。
もう一つは霧状にして毒を空気中に撒き散らす方法で、こっちは弱いけど効果が出るまでに時間がかかるため気付いた時には手遅れになっている時がある。
この後者による毒が厄介で、症状が出るところまで毒に汚染されていると質の高い解毒薬ではないと解毒出来なくなる。
それをふまえて僕たちはベネーナと対峙した。
今回に限り、僕たちは七人でパーティーを組んだ。
経験値ペナルティーを受けるけど、それでもパーティーを組むことで得られる恩恵もある。
パーティーを組むと、そのパーティーメンバーの位置をある程度把握出来るようになるというのは有名だけど、他にもパーティーメンバーの状態把握というのが存在する。
これはベネーナの毒霧による汚染対策だ。
エイルが攻撃を仕掛けながらそれをチェックすることになっている。
もちろん他のメンバーも気を付けるけど、乱戦になった時に余裕があるかは分からないから。
その点弓主体で戦うエイルは、一歩引いた位置から全体を見ることが出来るから適任なのだ。
ベネーナと戦って実感したのは相性の悪さ。
動きはついていける。けど、斬撃が通りにくい。
剣先が捉えたと思ったのに、つるりと滑る。当ったのに手応えがない。
斬撃よりも刺突が有効なのは分かっているから突きによる攻撃も仕掛けるけど、それを察知するのかベネーナは後方に跳んで間合いから逃げてしまう。
「フロー君。前に行き過ぎだ!」
そして焦りからかつい前に出てしまった。
僕は慌てて後方に下がるが、そこに狙いすましたように複数のベネーナが跳んでくる。
これが単純に蹴りによる攻撃なら回避出来たけど、口を膨らませている個体もいた。
あの動作は舌による攻撃か、毒による攻撃かの二択になる。
どう受けるべきか迷ったことで動きを止めてしまった。
そこにベネーナの毒、舌、蹴りによる同時攻撃が飛んできた。
ここから回避するのは無理だ……。
「フロー⁉」
ニアの悲鳴が聞こえた。
躱せないなら被害を最小限にしようと、僕は左端の蹴りを仕掛けてきた個体を狙うことにした。ある意味相打ち覚悟だ。
けどそんな未来は訪れなかった。
「えっ」
きっと僕は傍から見たら間抜けな顔をしていたと思う。
「さ、今のうちに離脱を」
落ち着いた男性の声が届いた。
僕はそれを聞いて瞬時に皆のいる方に戻った。
声のした方をチラリと見たら視線が合った。
エイルは口元に笑みを浮かべると、次の獲物を狩るため弦を引くと矢を放った。
放たれた矢は寸分違わず、吸い込まれるようにベネーナの眉間を貫いていく。
凄い早撃ちだ。
さっきまで僕を囲んでいたベネーナが、為す術もなく倒れていく。
それにセシリアやラルクも順調に討伐してその数を減らしている。
セシリアは盾で防ぐだけでなく、剣を振り抜き斬り倒している。ニアに経験を積ませるためか、攻撃は控えめだけど。
ラルクも盾使いが攻撃を止めたタイミングですかさず槍を突き出し一突きで倒している。二人の息が合っているからこその芸当だ。
「やっちまったすー」
なんて声が時々聞こえてきたのは気になったけど……難なく倒していた。
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