第29話 驚き

「なるほど。確かに魔物が意外といるな」


 森に入って既に三度戦闘を行った。

 倒したのはウルフで、これで計十三体になる。

 同行者を増やしたもう一つの理由は、この近辺の街道を通った時に、森からウルフが現れて襲われたという話が多く上がっていたため、ウルフが……森の中の魔物が増えているかもしれないと思ったからだ。

 その後も沼地に到着するまでに二度の戦闘に遭い、僕たちはウルフと戦った。

 その間基本的に僕とニアが戦うことになったが、新しく同行した三人がニアの戦いぶりに目を丸くしていた。


「ラルクのことだから嘘だと思っていたのに……」

「全くだ……」

「体の軸もしっかりしているし周りがよく見えている。凄いですね」


 ニアを褒めているのは、たぶん森の中で長物の槍を上手く使いこなしているからだろう。

 場所によっては槍が枝葉に引っ掛かってもおかしくないのに、自分の戦いやすい場所にウルフを誘い込んでいた。


「あ、レベルが上がりました!」


 そして無邪気に喜ぶニアの言葉が胸に突き刺さった。

 そうか……レベルが上がったのか……。

 これで僕とニアとのレベル差がなくなった。

 鈍足のスローと言われるはずだ。




「フロー、元気がないようですけど大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だよ」


 顔に出ていたのか、ニアに心配されてしまった。

 いけないな。

 確かにレンタルのせいで成長は遅いけど、そのお陰で助かったこともある。

 ギーグとの戦いだって、レンタルがなければ勝てなかったと思う。

 何よりニアを助けられたのは間違いなくレンタルのお陰だ。


「ほら、そろそろ沼地だからさ」


 だから誤魔化すために話題を変えることにした。

 実際沼地の近くまで来ているのは事実だ。

 風に流れて腐敗したような臭いが微かだが漂ってきている。

 沼地に出る魔物はベネーナという名の蛙型の魔物だ。

 この魔物の厄介なところは、強さ以上に狩りにくいというとこだ。

 違う。ただ狩るだけなら普通に狩れる。素材を確保しながら狩ることが難しいのだ。

 ベネーナで一番求められるのは毒袋。この毒袋に溜まった毒が錬金術の素材となる。

 そしてこの毒袋だが、他の魔物と違って決まった場所にない。個体ごとに毒袋の位置が違うのだ。


「確か毒袋を傷付けては駄目なんですよね?」

「うん、だからベネーナを狩るなら頭か魔石を狙うのが一番みたいだね」


 毒袋を少しでも傷付けると毒が体中に広がり、そうなると他の素材も使えなくなってしまう。

 だから確実に倒すなら頭を潰すか胸にある魔石を破壊するのが一般的なのだけど、ベネーナは素早く、また表面が滑っているから剣などの斬撃による攻撃の通りが悪い。武器で倒すなら槍や弓矢による刺突系の攻撃が有効になる。

 最悪なのがその毒袋が魔石のある胸の近くにあった場合だけど、それはもう諦めるしかない。

 ちなみに頭に毒袋があった個体は今まで発見されていないそうだ。


「ラルクと……ニア頼りになるのかな?」

「う、頑張ります」


 思ったままのことを口にしたら、ニアが緊張するのが分かった。

 僕の声がラルクにも聞こえたのか、ラルクは胸を張って満面の笑みを浮かべて頷いている。


「はあ、お前たち頼んだぞ」


 それを見たセシリアは、三人の仲間たちに指示を出している。

 その三人はそれぞれ剣、盾、弓矢が得意の人たちで、特に弓使いの人と入念に話している。

 確か弓使いの人はエイルと名乗っていた。この中で一番のベテランで、歴戦の戦士を感じさせる凄みがある。

 逆に剣と盾使いの二人は若く、少し緊張している。

 けどセシリアたちのやり取りを聞いている限り、やはりセシリアが一番偉いみたいだ。

 そういえばニアについて、私的な話を殆ど知らない。

 分かっているのはアルスフィア皇国の人間で、ヴァルハイト公国を目指していることと、あとはププルを使役しているということぐらいだ。あ、他にもセシリアたちから大切にされているということもあるか?


「ではもう少し進んで今日は野営をする。明日はいよいよベネーナ狩りだ。今日はゆっくり休むように」


 セシリアの宣言通り、僕たちは沼地の近くで野営することにした。

 ギルドで前もってベネーナの縄張りを調べているから、それよりも余裕を持った場所を選んだ。

 料理は黒パンや干し肉に、スープだけはニアが作ってくれた。

 思えば最初遠征に行った時に、ニアが料理を作るとセシリアとラルクは大層驚いていた。

 今回新たに同行した三人も、目を丸くしている。

 メリッサから料理を教わっていたのは知っていたけど、本当に手際がいい。

 単純に料理を教わった時間なら僕の方が長いと思うけど、ニアの方が上だ。

 料理を終えたニアは、食事を摂りながら皆が料理を食べているのをニコニコしながら見ている。本当に嬉しそうだ。

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