第28話 経験値

 ナーフの街にきて二週間が過ぎた。

 負傷していた人は順調に回復しているらしく、あと十日もすれば完治するとのことだ。

 ニアもそれを聞いてホッと胸を撫でおろしていた。

 その間僕たちは依頼を着々とこなしていた。

 セシリアたちは討伐依頼ならそつなくこなすが、薬草などの採取依頼は全然上手く出来なかった。


「違いが分からないっす。自分には無理っす」


 とラルクが弱音を吐いたが、いつもなら叱るセシリアもこの時ばかりは沈黙を守っていた。


「ププル凄いです」


 そんな二人をよそに、採取依頼で大活躍したのはププルだ。

 ププルはニアから薬草類を与えられるとそれを瞬時に記憶したようで、薬草の群生地を這い回ると、薬草と雑草を瞬時に餞別して採取した。

 その様子には思わず僕も手を止めた。

 またこの期間、僕も常にニアたちと一緒に行動していたわけではなく、単独行動で依頼を受けた時もあった。

 そしてその時運悪く襲われた。

 五人組の盗賊で、反撃した際に二人殺し、三人を拘束した。

 死体をナーフの警備隊に渡した際に事情聴取を受けることになったけど、警備隊もこの盗賊に関しては把握していたようで特に拘束されることなく解放された。

 これはある意味ギーグ盗賊団が壊滅した影響で、近頃別のところで盗賊行為を働いていた者が、ナーフの街の近くに流れてきたのではと聞かされた。


「……レベルは上がらずか……」


 宿に戻ってまずしたことはレベルの確認だった。

 右手に浮かぶ数字は13で、数字を囲む線に変化も見られなかった。前日に確認した時と同じままだ。ポイントも増えていない。

 それはすなわち、人を殺しても経験値を得られなかった証拠だ。


「なら何故ギーグたちを殺した時は増えた?」


 考えられるのは一つだけだった。

 あの時と今と明確に違うことが一つだけある。


「ニアか……」


 そう、ニアとパーティーを組んでいないという点だ。

 ならその鍵はニアにあるということか?

 次に会った時にニアに話しておこう。

 この件に関しては、ニアもセシリアたちに話していないようだったし。




「フロー君、この依頼なんてどうだろうか?」


 冒険者ギルドで次に受ける依頼を考えている時、セシリアがある依頼票を指して言ってきた。

 それはナーフの街から南東に位置する森の中にある沼地に生息するという魔物の討伐だ。

 その魔物自体は沼地から離れることがないため大きな害はないが、その魔物の素材が良質な解毒薬を作るために必要なこともあって、時々ギルドに依頼が入るということを僕はここのギルド職員から説明を受けたことがあった。

 ただ厄介なことに、その魔物は強く、毒による状態異常攻撃を持っているため、高額な報酬なのにもかかわらず受ける人が少ない。

 下手するとその高額の報酬以上の支出をする羽目になるからだ。

 ただ気になるのが、報酬の値が上がっている点だ。

 それだけ急を要しているのだろうか?

 ここを拠点に活動している腕利きの冒険者の多くが、今はライルラスのダンジョンに派遣されているから狩る人がいないのかもしれない。


「そうですね……準備は必要になりますが、僕は賛成です」


 少なくとも解毒薬と野営をするための準備はしないとだ。

 僕の方では解毒薬は既にある。

 これは結構品質の良いものだ。 

 ライルラスのダンジョン内に出るスパイダー系の魔物は、稀にだけど毒による攻撃をしてくるから、通うようになって買った物がマジックリングの中に入っている。

 状態異常にも強弱があり、強い毒性のあるものほど質の良いポーションでしか解毒することが出来ない。

 そのためチェノスからは高くても良い奴を一つは買っておくように教わっていた。

 最終手段としてレンタルで入手することも可能だけど、上級回復薬のように効果の高いものほど必要ポイントは増えるからね。

 それにこの依頼に関しては、僕もいずれ受けたいと思っていた。

 何故ならこの沼地を抜けた先にギーグ盗賊団の拠点がある、みたいだからだ。


「なら受けようじゃないか。そうと分かったら早速準備だな。ラルクは買い出しに、私たちは詳しい話を聞くとしよう」

「任せるっす」


 いつもの調子で答えたラルクを見送った僕たちは、早速ギルドの受付嬢から話を聞いた。

 その時に適正レベルなどの説明を受けたけど、それを聞いて僕だけじゃ沼地を抜けるのは難しかったと思った。

 本当にセシリアたちがいてくれて助かった。




 三日後。いつもの四人に、セシリアたちの仲間三人が追加で同行することになった。

 彼らも冒険者登録を一応したみたいだ。

 ニアの旅の同行者は、負傷していた人を除いてあと二人いるそうで、その二人は留守番みたい。

 宿に滞在しているとはいえ、さすがに一人にさせるのは心配なんだと思う。

 今回急遽三人が同行することになったのは、いくつか理由があるが、やはり今回行く場所の適正レベルが高いということが関係していた。

 僕とニアはそのレベルに到達していないからね。


「おいらだけで十分っすよ」


 とラルクは不満気だったけど。

 僕たちは早朝街を発ち、街道を進み、途中で森の中に入り野営をした。

 人数が多いから余裕を持って休むことが出来るのは嬉しい。


「ニア、本当にいいのですか?」


 そして今回七人ということもあって、パーティーは僕とニア、セシリアたち五人の二つの組に分かれた。

 レベル制限もあるけど、やはり人を殺した時に経験値を得るということをニアがセシリアにも言えなかったからだ。

 パーティーを組むと何かの拍子にそれが分かってしまうからね。

 この辺りはニアの判断に任せている。

 だっていずれ僕はニアと別れることになるから。

 それを考えると胸がチクリとするのは何故だろうか?

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