第27話 セシリア・1

  ◇ セシリア視点・1


「いいんすか?」

「ああ」


 ラルクの問いに、私は頷いた。

 ニア様から話を聞いた時正直驚いた。

 少年……フロー君があのギーグを倒したと。

 対峙したことのある私には分かった。あの男は強いと。

 正面からまともに戦った場合、果たして結果がどうなるか私にも分からなかった。

 現在ニア様とパーティーが成立している以上、フロー君のレベルは高くても17になる。

 正直言ってそのレベルで倒したことが信じられない。

 レベルが全てではないし、その差を覆すことが出来るギフトも存在する。技量が……剣の腕が優れている場合もある。

 模擬戦で手合わせをしてみて、確かに目を見張るものはあったが、ギーグを倒すほどの腕かというと疑問が残る。

 剣を交えてみて、戦闘系のギフト持ちではないような気がした。

 ただゴブリンとの戦いを見て認識を改めた。

 模擬戦でも確かに全力を出しているようには見えたが、実践での彼はあの時よりも明らかに動きがいい。

 直感が告げている。彼は強くなると。彼が……。


「確かに凄いっすけど。あの化け物を倒すほどっすかね?」

「……ニア様が嘘を言っているとでも?」

「ち、違うっすよ」


 一睨みしたらラルクは慌てだした。

 無理もないとは思うが、現実として倒した事実だけは存在している。

 ギーグの死は私も耳にしていた。その真偽の確認もした。

 しかし……私は視線をニア様に移した。

 そこには槍を強く握り締めて、心配そうに見詰めるニア様の姿がある。

 ニア様のそんな表情を見るのは、彼女の護衛に就いてから初めてかもしれない。

 信頼されているし腕もいい。

フロー君、彼はニア様を任せることが出来るほどの人物なのか?

 私が視線を再びフロー君に戻すと、彼の肩に乗ったププルが震えて前方に液体を撒き散らしたところだった。

 盾持ちのゴブリンは液体を盾で防ぎ、上位種は危険を察知したのか弓持ちのところまで後退した。

 槍持ちのゴブリンは反応出来ずにその液体を頭から被り、苦しそうな声を上げ転げ回った。

 注意して見ると、液体を浴びたところが焼きただれている。ゴブリンの持つ盾にも溶けたような被害があった。


「マジっすか……」


 ラルクはそれを見て体を震わせていた。

 それには同意だ。

 あれは酸性の液体か? まさかこんなことも出来たのか……。

 ニア様から聞いていたププルの特性は、収納魔法と同じようにアイテムを保管出来るというものだけだったはず。

 もしかしてニア様が成長レベルアップしたことで、あのスライムも成長したということか? それともニア様が知らないものがまだあるのかもしれない。

 ただ酸性の攻撃はスライムとしては普通か。


「勝負ありっすね」

「ああ、私たちが手を出すまでもなかったな」


 最初こそゴブリンたちは善戦していたが、ププルの攻撃によって陣形が崩れると、あとはフロー君の攻撃に耐えられず各個撃破されていった。

 最後上位種のゴブリンが抵抗をしたが、長くは続かなかった。


「ラルクならどう戦った?」

「槍で牽制しながら各個撃破っすね。立ち位置をコントロールして誘導すれば、そう難しくはないっす……セシリアだったらどうしたっすか?」


 ラルクらしい、自分の持つ獲物を十二分に生かした戦い方だ。


「……いつものように剣を振るうだけさ」


 私の言葉に、ラルクは何か言いたそうだったが結局口を閉じた。

 フロー君との戦闘を見て、あの四体の強さはだいたい想像出来た。

 上位種以外の三体は通常のゴブリンと強さの違いはなく、上位種が指示を出していたことで多少強くなっていただけだ。

 あの程度に小細工は必要ない。

 私は腰に差した剣に手を添える。

 家宝であるこのミスリルの剣なら、あの程度の盾で防ぐことは無理だろう。盾ごと真っ二つに出来る。

 あれがファイター系の上位種ではなく、ゴブリンメイジだったら多少の面倒臭さは覚えたかもしれないが。

 その後ププルが討伐部位と魔石を回収し、少し時間を空けてからフロー君とニア様を残して洞窟内を調べた。一応念のためだ。

 ゴブリンは一体でも逃すと厄介な魔物だからな。確実に殲滅しておきたい。


「結構広いっすね」

「ああ。けどゴブリンは全て狩れたようだな」


 これで依頼は終了だ。


「……それでこれからどうするっすか?」

「ハイルが回復したらライルラスに向かう。馬車のこともあるが、ニア様が約束したみたいだしな」


 戻らないと不審に思う者が出るかもしれない。

 それにヴァルハイト公国に行くならライルラスは通り道だ。

 盗賊の襲撃前は王都リュゲルの方まで行こうと思っていたが、絶対に寄る必要はないからな。足止めで時間も食っていることだし。

 ただその前にやることがある。


「……あの者たちの拠点を探す必要があるな」


 私の言葉にラルクは神妙に頷いた。

 手掛かりは残していないと思うが、盗賊とは狡猾な者が多い。何かしら残しているかもしれない。それがあれば処分しないといけない。

 そのためには冒険者として依頼を受け続けないとだ。

 私たちのように他国の人間が自由に動くには、それなりの理由が必要だ。不審に思われないためにも。

 それを考えるとフロー君の存在は有難い。

 その後一度村に戻ると、村の男たちを連れて再び洞窟まで戻った。洞窟の入口を塞ぐためだ。

 このまま残すと、再び魔物が住処にするとフロー君に言われたからだ。

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