第25話 誘導香
ナーフの街を出発して三日。このペースで進めば日が暮れる前に村に到着出来ると思う。
街道をライルラス方面に戻り、途中右手に見えてきた森へと延びた道を進む。
街と街とを結ぶ街道と比べると地面が凸凹しているけど、歩く分には問題ない。馬車だとちょっとガタガタと揺れて大変かもしれない。
もっとも馬車で村には行けないから、ここを馬車で通る人はいないだろうけど。馬車が通るには森の中の道は狭いから。
「ニア、大丈夫ですか?」
背後からニアを心配するセシリアの声が聞こえた。
旅をして分かったことだけど、とにかくニアとセシリアは仲が良い。まるで姉妹という感じで、セシリアが過保護な姉といった印象を受ける。
ただこれは当たり前のことのようで、ラルクは気にした様子もなくそれを冷めた目で眺めている。
またラルクにしても、口調は軽いけど、仕事は一つ一つ真面目にこなす人だということが分かった。
ニアも二人のことを信頼しているのか、いい意味で肩の力が抜けている。チェノスたちと馬車のところまで移動した時は、凄く緊張していたからね。
皇国から長いこと一緒に旅をした仲というのもあるんだろうな。
また村まで行く途中、セシリアたちと何度か模擬戦を行なった。
街にいる時は忙しく、互いの力量を実際に確認することが出来なかったというのがある。
「やるな、フロー君。ニアから話は聞いていたけど、いい腕だ。ラルクもこれを見習い精進するように」
セシリアは褒めてくれたけど、ちょっと複雑だ。
全力でかかってきてくれと言われて挑んだ結果。手も足も出なかった。
セシリアのレベルが高いことはなんとなく分かっていたけど、それでも対人戦はそれなりに自身があった。
だからレベル差があってもいい勝負は出来るなんて思っていた。
それが甘い考えだということをすぐに思い知らされた。
最初は七割ぐらいに力を押さえていたけど、すぐにそれが間違いだと気付いた。
結局全力を出し切ったのに、セシリアの息一つ乱すことが出来なかった。
僕が戦った後に、休憩を挟むことなくラルクの相手もしていた。
そのラルクは力尽きて大の字で寝ている。
セシリアの強さは、今まで戦った中で一番かもしれない。ギーグよりも……いや、あの時はギーグも消耗していたしどうなんだろう?
どちらにしろ、手も足も出なかったことは確かだ。
最後にニアがセシリアに挑んだけど、その動きにセシリアは驚いているようだった。
もしかしたらニアは、セシリアにレベルが上がったことを伝えていなかったのかもしれない。
それとセシリアと模擬戦をやった時、セシリアの持つ武器を見た時にレンタルのリストが更新された。
NEW
【フィアの護剣 9000p】
ミスリルの剣みたいだけど、驚くことに名前付きだった。
大事に手入れしているところを見て何気なく聞いてみたら、父親から譲り受けたと、懐かしそうに、寂しそうに言った。
村に到着すると、軽い歓迎を受けてその日は休むことになった。
もちろん被害状況や、どの辺りでゴブリンを目撃したかの話は聞いた。
翌朝早い時間に村を発ち、森の奥へと進む。
話によればゴブリンは洞窟を住処にしているみたいと村長は言った。
その洞窟は巣になっている可能性が高い。
だから数が多いだろう、と報告があったのかな?
けど洞窟か……中に入るなら灯りが必要になるかもしれない。
洞窟はダンジョンと違って中に灯りがない場合が殆どだから。
そうなると松明で灯りを確保する人員を用意しないといけないから、単純に戦える人が減ることになる。
そもそも洞窟の広さ次第では、碌に剣を振るうことが出来ないことだってある。
……いや、あれが使えるかもしれない。
レンタルのリストを呼び出して確認する。
【誘導香 200p】
必要ポイントは200だけど使う価値はある。
ちなみにこれは今までお店で見たことがないアイテムだったりするけど、本を読んで登録されたから、この世界の何処かには存在するんだと思う。
効果はこの香りを吸った魔物を香の発生源に誘き寄せるというもの。
複数同時に使うとどうなるとか気になるけど、レンタルで借りられるアイテムは基本単体でしか手に入らない。
例外はセット表示されていれば複数のものをレンタル出来るけど、現在は投擲ナイフだけだ。
仮説だけど、これは何度も同じものを使うとセット表示が現れるのではと思っている。
洞窟の広さは分からないけど、抜け道など、他に出口がなければこれはかなり有効な手だと思う。
これを使って洞窟の外にゴブリンたちが出てきたところを叩く。
入口で迎い討てば、数の優位も抑えることが出来る。
押し寄せるゴブリンたちを素早く討伐する必要があるけど、セシリアの強さを考えると十分勝算はある。
ここで僕がいるからといえるだけの力が欲しいとは思う。そうなれるように今は地道にレベルと剣の技術を上げていくしかないかな。
「セシリア、提案があります」
森の中にいた二体のゴブリンを倒した後に、僕はセシリアに声をかけた。
ゴブリンは偵察でもしているのか、ここまでくる間に計五体と戦った。
基本僕とニアが倒して、セシリアとラルクは手を出さない。
これは現在僕とニアの二人だけがパーティーを組んでいるからだ。
パーティーは数が少ないほど得る経験値は多いからね。
「誘導香というアイテムがあるんだけど、これで誘き出せないかな?」
「誘導香か……珍しいものを持っているのだな」
アイテムの説明をする前に、そう言葉が返ってきた時は驚いた。
まさか知っているとは……。
「旅の商人からたまたま買ったものだけど、珍しいものですか?」
「皇国……ああ、私たちはアルスフィア皇国からきたのだが、そこで売っているのを見たことがある。確かアルキミア魔導帝国の方で開発されたものだったはずだ」
アルキミア魔導帝国——ここリュゲル王国を北上し、大河を渡った先にある、魔術ギルドと錬金術ギルドの本部がある国だ。
魔法に関する書物が豊富で、大陸の全ての魔導書が保管されているとも言われている。
確か有名な図書館があったけどどんな名前だったか……。
「……うむ、確かそこそこな値段がしたような気がするが、いいのか?」
そうなのか……。
実物を見たことがないのにポイントも少ないから安物かと思ったけど違うのか。
「これで洞窟に入らないで討伐出来るならいいじゃないですか」
セシリアはゴブリンを討伐するのに使うのは勿体ないと言いたかったのかもしれない。
「……なら使わせてもらおう。入口で迎え討つとして……パーティーはそのままで、私たちは援護に回るとしよう。ニア、それでいいですか?」
セシリアの言葉に、ニアは大きく深呼吸して……頷いた。
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