第24話 冒険者登録

 ナーフの街に到着して五日が経っていた。

 僕は冒険者ギルドで周辺のことを教えてもらいながらいくつかの依頼を受けた。雑用がメインになっているけど……。

 ギーグ盗賊団のアジトには行きたいけど、まずは周辺の地理を覚えることからだ。

 一人で活動する以上、何処で安全に休めるのかや、魔物の生息圏を調べる必要がある。

 ギーグ盗賊団のアジトがナーフの街から近いといっても、森を抜けた先の岩山の中にあるようで、歩くとそれなりにかかる。

 それにその周辺には数こそ少ないが毒持ちの魔物が生息していることもギーグの記憶にはあった。

 それがいるから人も滅多に寄り付かないようで、それ故にそこを盗賊団の拠点に選んだのかもしれない。

 あの時知った記憶が確かなら、ナーフ領とエキスラ領の境界線に拠点はある。

 僕が今日も依頼を終えて宿に戻ってきたら、宿の食堂でニアが待っていた。その隣にはセシリアも座っている。

 宿の食堂は宿泊客以外にも利用する人が多いから、別に彼女たちがいても不思議ではない。

 ただ利用者は常連が多いから、一見さんは目立つ。二人が美人だというのも目立っている理由かもしれないけど。

 視線を集めているみたいで、ニアは若干居心地が悪そうだ。


「ニアにセシリアさん、どうしたんですか?」


 僕が二人に話しかけると、何故か背筋に冷たいものを覚えた。ブルリと体が震えたよ。


「……えっと、その……」


 僕が尋ねるとニアは返答に困ったのか、助けを求めるようにセシリアを見ている。

 セシリアはそんなニアを優し気に見ていたが、こちらに振り向くと、


「フロー君は冒険者として活動しているそうだけど、ソロみたいだからね。それで少し私たちが手伝えないかと思って」


 と、言ってきた。


「セシリアさんは冒険者なんですか?」


 戦える人、という感じは初めて会った時にその体の動かし方で分かったけど、雰囲気が冒険者というよりも騎士に近いような印象を受けた。


「……冒険者ではないよ。あと、私のことはセシリアでいい」


 セシリアが言うには、負傷した仲間はニアの持ってきた回復薬で一命を取り留めたが、動けるようになるまではまだ時間がかかるだろうということだ。

 その間セシリアたちの手が空くため、ソロで冒険者活動をしている僕の手伝いをしたいとニアがセシリアに相談したそうだ。


「本当は反対したいところだが、今回のことがあって、ニアのレベルを上げるのも悪くないと思ってね。それにニアもフロー君のことは嫌じゃないようだしね」


 その言葉にニアの顔が瞬く間に赤く染まっていった。

 ここで僕まで反応すると事故になるから平常心だ。


「僕としては少し遠出したいと思っていたので助かるけど……」


 実際に日帰りで行ける場所だと碌な依頼がない。討伐依頼はほぼゼロだし、魔物との遭遇も皆無だからレベル上げも……レンタルのポイントも稼げない。


「ならフロー君。よろしく頼むよ」


 こうして僕たちはパーティーを組むことになったけど、一つ問題があった。


「セシリア。私たちと組むと、その……」

「レベル制限は気にする必要ないよ。それに別にパーティーは組まなくても一緒に行動出来るからね。あと、私だけでなく仲間も同行すると思うけどいいかな?」


 詳しく聞けば、負傷した人以外にも何人か仲間がいるみたいで、体が鈍らないようにしたいとのことだ。

 ただ全ての人が一緒に行動するわけではないようだ。

 一緒に行動する際、冒険者登録をどうするか尋ねたら明日登録しに行きたいと言われた。


「いいのですか?」


 とニアは驚いていたけど、セシリアは「問題ありません」と答えていた。




「ラルクというっす。よろしくっす」


 翌日ニアたちと冒険者ギルドの前で待ち合わせをしていたら、新たに一人の青年が同行していた。

 名前は知らなかったけど、ニアたちの泊まる宿で見掛けたことはあった。

 開口一番挨拶をしてきたラルクを見て、セシリアは額を抑えていた。


「その口調はどうにかならないのか……」

「無理っす。諦めて欲しいっす」


 二人のやり取りを見たニアは、ニコニコしている。

 きっとこのやり取りはニアにとってはいつも通りの日常なのだろう。


「とりあえず先に登録を済ませてしまいましょう」


 僕は騒ぐ二人を促してギルドの中に入って行った。

 ギルド内は遅い時間ということもあり閑散としている。

 ただ人が少ないのはそれだけが理由ではない。

 僕もここにきて初めて知ったのだけど、ナーフの街の冒険者はライルラスの街に比べて数が少ない。

 そこはダンジョンが近くにあるかないかの差もあるし、後は一部の冒険者が領主の指名依頼を受けて、騎士団に同行してダンジョンの警備に向かったためでもあるみたいだ。

 たぶん、ギーグの記憶で見た領主の息のかかった冒険者たちだ。

 ニアはライルラスの冒険者ギルドに一度寄ったことがあるけど、セシリアとラルクの二人は冒険者ギルド自体に初めて入るのかキョロキョロと珍しそうに辺りを見回している。

 その様子に、ギルド内にいた数人の人たちの注目を集めているけど、それにも気付いてないようだ。

 三人の冒険者登録が終わると、そのまま依頼の確認をした。


「やっぱ魔物の討伐依頼を受けるんすか?」

「ニアのレベルを上げるためにもそれが一番だが……まずは戦いに慣れる必要もあるしな」


 ラルクの言葉にセシリアが腕を組んで考えている。

 ニアのレベルは7だからウルフとも戦えると思う。セシリアのレベルは分からないけど、ニアの口ぶりからレベル制限に引っ掛かるなら17以上なんだろう。


「セシリアたちは魔物と戦ったことがあるの?」

「少し……はな」

「任せるっす」


 ラルクが口を開くたびに不安になるのは不思議だ。


「あ、あの。これを受けたいのですが……」


 そんな中、ニアがある一枚の依頼票を指差した。


「ゴブリンの討伐依頼ですか」


 それはゴブリンの被害を受けた村からの討伐依頼だった。

 ギーグ盗賊団のアジトとは反対方向だけど、ニアが魔物に慣れるための相手としてゴブリンは申し分ないと思う。

 数が多いというのが少し気になるけど……。

 僕がセシリアの方を見ると、


「いいだろう……フロー君も大丈夫かな?」


 と聞いてきたから僕は頷いた。

 セシリアは数が多いと見ても気負った様子がなかった。

 ラルクは顔を顰めていたけど。

 その後僕たちはゴブリン討伐の依頼を受けると、その日は遠出する準備をして解散することとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る