第23話 再会
あれからニアと話す機会があって、僕はニアにレベルが上がったかを尋ねたら、7になったと教えてくれた。
予想通りの解答だったけど、ニア本人も戸惑っていた。
「これは僕たちだけの秘密にしよう」
と僕が理由を話すと、ニアもことの深刻さを理解しているのか頷いた。
他の人に話しても、信じてくれないとは思うけど、わざわざ言いふらすようなことではない。
ただ何でこのようなことが起こったのかは、調べる必要があるかもしれないけど……どうやって?
それとも人によっては、人を殺すことでレベルが上がるという人が存在する? それがたまたま僕とニアだったということ?
僕が悩みながらも普段通り冒険者の依頼をこなして日々を過ごしていたある日。ニアのもとに連絡が届いた。
それは彼女の同行者たちの無事を知らせるものだった。
「本当に良かったわね」
「はい」
「……お姉ちゃん、出て行っちゃうの?」
メリッサは素直に喜んでいたけど、ジニーはニアが出て行ってしまうと思いその表情は暗い。
ニアもどう答えていいか迷っているようで、助けを求めるように僕の方を見てきた。
「寂しくなるけど仕方ないよ。ニアにはニアの事情があるんだから」
僕が言うと、ジニーは抱き着いて僕のお腹に頭を押し付けてきた。
僕はそんなジニーの頭を優しく撫でながら、
「それで今後のニアの予定は?」
と気になることを聞いた。
ニアと別れるのは僕も寂しく思うけど、これは分かっていたことだ。
ニアがヴァルハイト公国を目指して旅していたことを以前聞いていたから。
「それが……大怪我をした方がいるそうで、一度私がナーフの街まで行かないとなのです」
話を聞くと、ニアの持っていた鞄の中に回復薬が入っていたみたいで、それが必要だと連絡があったとのことだ。
ちなみにニアはそれが回復薬だということを知らなかったようで、荷物整理をしていた時に何だろうと思っていた物だそうだ。
けど王都を目指していたのにナーフの街にいるとは……ニアを探すために移動していたのかな?
いや、怪我をしている人がいるというから違うか。
襲われた場所から一番近い街がナーフだった感じかな?
「そうですか……けど乗合馬車を利用するにしても一人で行くのは心配ですね」
メリッサがこちらをチラリと見てきた。
「そうだね。なら僕も一緒に行こうかな? 一度ナーフの街を見てみたいと思っていたし」
僕の言葉にニアは驚いたようだったけど、ちょっと嬉しそうに微笑んでくれた。
一人で行くのは心細かったのかな?
実際ここで働くようになってからも、ニアが一人で宿の外に出ているのを僕は見たことがない。
僕が知らないだけで、一人で色々な場所に足を運んでいるかもしれないけど。
「お兄ちゃんもいなくなっちゃうの?」
ジニーが顔を上げて見てきたから、
「ギルドの仕事で遠征に行くのと変わらないよ。それに僕がいない間、メリッサさんのことを助けてあげてね」
と言えば、ジニーは少し間を置いてからコクリと頷いた。
「なら旅の準備をしないとね。今日の仕事は休んでいいから、ニアは旅支度をしなさい。乗合馬車の予約も必要だし、怪我をしているというなら出来るだけ早く行ってあげた方がいいでしょうし」
それからは忙しかった。
まずはニアと一緒に乗合馬車の予約をして、旅に必要な物……は既に揃っている。
食事に関しては追加料金を払えば乗合馬車の人が用意してくれるから心配ない。味は……あまり期待出来ないけど。
その後僕は冒険者ギルドに寄って、しばらくの間ライルラスの街を離れることをシエラさんに伝えた。
冒険者が街を出る時に報告をする義務はないけど、シエラさんにはお世話になっているからね。
その後それを何処かから聞きつけてきたチェノスによって簡単な送別会が開かれたりしたけど、別にまた戻ってきますよ? ああ、ニアのためか。
それとたぶん、飲む理由が欲しかったんだと思う。いつも飲んでいるような気がするけど。
「お兄ちゃん、早く帰ってきてね! お姉ちゃんも、よかったらまたきてね」
「馬車の修理を頼んでいますから、またライルラスに戻ってきますよ。その時は私の……旅の仲間を紹介しますね」
ジニーたちに見送られて、僕たちは乗合馬車に揺られながらナーフの街に向かった。
旅は順調で特にトラブルに見舞われることなく、予定通りにナーフの街に到着した。
いや、ニアが馬車に乗って酔ったことが見舞われたトラブルか?
「こ、こんなに揺れるんですか?」
と顔を真っ青にしていた。
どうやらニアが今まで乗っていた馬車は、頑丈なだけでなく揺れも小さい高性能な奴だったようだ。
それでも旅程の半分が過ぎた頃には慣れたようで、普通に馬車の中で話せるようになっていた。
「それで待ち合わせ場所は何処なの?」
ニアから待ち合わせ場所の宿の名前を教えて貰い、僕は門番の人に宿の場所を聞くことにした。
教えて貰った道順で向かった先は、大きな宿だった。
受付で名前を名乗ると、話が通っていたようですぐに連絡を取ってくれた。
ほどなくして一人の女性が階上から姿を現した。
彼女はニアの姿を認めると、駆け寄ってきて抱き締めた。
「い、痛いです。セシリア」
けどニアのその声は嬉しそうに聞こえた。
僕は傍らに立ちその様子を眺めていたけど、その視線に気付いたセシリアと呼ばれた女性は僕の方を見て頭を下げてきた。
「ニア……から話は聞いています。ニアを保護してくれてありがとうございます」
真正面から見たセシリアは、大人びて見えた。
その赤い瞳に見詰められると、何故か落ち着かなくなった。
「……保護したのは偶然ですから。それよりもニアが持つ薬が必要だって話ですよね? まずはそっちを済ませた方がいいと思いますよ」
僕の言葉に、セシリアとニアも思い出したのか、
「そうです。ニア、薬はありますか?」
ニアの差し出した瓶を受け取ると階段を上って行ってしまった。
残された僕たちは仕方なくその場で待つことになった。
出来れば早めに宿を確保したいところだけど……ここは少し高そうだからね。
お金に余裕があるとはいえ、出来るだけ節約は必要だと思う。
それにしばらくはこの街で活動する予定だからね。
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