第17話 襲撃
翌朝食事を済ませると早速調査は開始された。
どんな手順で何を調べているかは分からないから、僕たちがすることといえば周囲の警戒が主な仕事だ。
一応副隊長にはニアの探し物があることを伝えてあるから、何か見つかったら教えてくれることになっている。
ただ人任せにするのも落ち着かないようで、ニアは邪魔にならないように馬車の近くに落ちていないかを確認している。
「あっ」
そして小さな声を上げて、ニアは地面から何かを拾い上げた。
それはちょうど石の隙間に埋もれていたようで、偶然首飾りの鎖に光が反射したのが目に入ったため気付いたと言っていた。
ただそれを見たニアは、顔を曇らせていた。
僕もそれを一目見て理由が分かった。
装飾の施された首飾りのある一部が破損していたのだ。
それは主役となるはずだった宝石で、ひび割れて欠けていた。
「大切な物だったの?」
僕の問いかけにニアはコクリと頷き、
「お誕生日のプレゼントで貰ったものです」
と教えてくれた。
その人はニアにとって姉であり、先生であり、親友であったと教えてくれた。
「こ、この旅でも一緒だったのですが……その、襲われた時に私を逃がすためにその場に残ったのです」
と言って生死は不明とのことだ。
「強い人だから大丈夫だとは思うのですけど……」
ニアが連絡を入れた相手がその人みたいで、現在その返答待ちだ。
「無事だといいね」
僕は結局それしか言えなかった。
一通り現場検証が済んで、そろそろ引き上げようということになったその時、
「警戒!」
チェノスの鋭い声がその場に響いた。
瞬間。武器を構える者、狼狽える者に分かれた。
ただこちらの準備が整うよりも先に、矢による攻撃に襲われた。
無数の矢が降り注ぎ、小さな悲鳴が上がり、負傷が出た。
「盗賊だ!」
「いつの間に⁉」
不意打ちを受けた僕らは浮足立っていたけど、
「落ち着け! 冒険者はパーティーで集まり迎え撃つ準備を!」
「警備隊は調査員を守れ! 盗賊の撃退は冒険者に任せろ!」
チェノスと副隊長の指示を受けて、各々が素早く動いた。
「ニアちゃんは調査員のもとに! フローは遊撃だ」
迷うニアの背中を押して移動させると、僕は再び飛んできた矢を剣で払った。
最初の混乱からどうにか立ち直って二度目の矢の攻撃は防げたけど、防戦している間に矢を射ていた者以外の盗賊が森から飛び出してきて間合いを詰めてきた。
それは盗賊らしかぬ動きで、統制が取れていた。
盗賊たちは足並みを揃えて、雪崩れ込むように突撃してきた。
魔法を使える者がまずは攻撃したけど、盗賊たちは怯むことなく駆けてくる。
魔法の直撃を受けて悲鳴が上がるけど、盗賊たちの足は止まらない。
やがて盗賊の先頭が僕たちのもとに到着し、剣を交えた。
その一撃は重く荒々しかったけどそれだけだ。
僕は相手の剣を無理に受け止めることはしないでいなすと、体が流れたところを攻撃した。
人数の差があるから、確実に殺した。
下手な手加減は危険を呼ぶ。特にここにはニアもいる。
僕は人を殺すのには慣れていない……ううん、正直に言うと実際に殺すのはこれが初めてだ。
以前盗賊に襲われたことがあったけど、その時は生け捕りにしたからだ。
ただ不思議なことに躊躇することはなかった。
人によっては殺せない人もいるという話だけど、僕にはそれがなかった。
「こいつらギーグ盗賊団だ!」
そんななか、誰かの悲鳴に似た声が耳に届いた。
ギーグ盗賊団。それはナーフ領を拠点にしているとされる盗賊団で、特に頭領のギーグをはじめとした幹部には高額の賞金が掛けられている。
ギーグは元々ナーフ領の領主直属の騎士団に所属していたそうだけど、気性が荒く、度重なる命令違反により除隊された。
その後拘束しようとした同僚を殺して逃走し、盗賊になったという話だ。
僕は剣を振るいながら周囲を見回す。
ギーグ盗賊団の幹部の人相書きは出回っているから、顔を見れば分かると思ったけど見当たらない。
まさか幹部は不在?
一瞬そんなことが脳裏に
少なくとも統制の取れた襲撃を仕掛けてきた以上、誰かしらいるはずだ。
「後ろだ!」
その時再び声が響いた。チェノスの声だ。
後ろ?
その言葉を指すのはニアたちがいる方だけど……。
嫌な予感がしてそちらに視線を向けると、馬車を挟んだ向こう側に、新たな集団の姿があった。
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