第16話 敵意

 目的地にはその日のうちに到着した。

 そこは森を歩くのに慣れた冒険者の集団がいたというのもあるけど、目的地までの距離はライルラスの街から意外と近い。

 僕たちが帰ってくる時に時間がかかったのは、ニアが歩き慣れてなかったとの魔物を避けるために最短距離を進まなかったからだ。

 ただ集団で移動していたからか、魔物と何度か戦った。


「相変わらず鋭い斬撃だ。レベル詐欺だよな」


 ゴブリンとの戦闘が終わった時に、ネスが話しかけてきた。

 魔物との戦いは冒険者の仕事だけど、チェノスたちパーティーは調査隊の護衛が主な任務のため、その他の冒険者が討伐に当たった。


「しかもニアさんも結構動けるじゃないか」


 そう、今回の戦闘ではニアも僕と一緒に戦っている。

 ニアが足手まといになりたくないということで、一度その腕を確認してみたところ、なかなかの槍の腕を持っていたことが分かったからだ。

 ただ魔物と実際に戦った経験はなかったみたいで、ネスのそのお褒めの言葉も聞こえてないようだった。

 僕も初めて魔物を自分の手で倒した時は自分のことで一杯いっぱいだったのを良く覚えている。

 今は落ち着くまでそっとしておこう。


「ご苦労様です。詳しい調査は明日の朝からやることにするので、各自野営の準備をお願いします」


 副隊長の言葉で、各々野営の準備を開始する。

 さすがに日が暮れた状態で調査するのは視界も悪いし、見落としがあっても困るからだろう。

 現場に到着した当初は、多くの人がその光景に驚いていた。

 崖から落ちたと思われる馬車の損傷が予想以上に軽微だったことと、あとはまあ、疾風の杖の暴走攻撃で破壊された地面を見てだ。

 あとは車体の中の固まった血の跡にもひどく驚いていた。

 確かに改めて見ると、明らかに量は多いし、ニアが助かったことは奇跡だという人もいた。

 チェノスたちに手招きされた僕は、第一発見者として色々とそこで聞かれて、ニアに対して上級回復薬を使ったことを告げた。

 それを聞いた一同は大層驚いていた。


「けどそうだよな。車体に破損がないとはいえ、あれだけの高さから落下したら内部に伝わる衝撃はかなりのもののはずだ。しかも車内には血の跡が酷かった。それを考えればニアちゃんが生きていることを不思議に思ったが……上級回復薬を使ったっていうなら納得だ」


 チェノスはそう言ったあとに、


「けどよく上級回復薬なんて持ってたな。それと見ず知らずの相手によく使ったな」


 と言ってきた。

 チェノスがそういうのは仕方ない。

 上級回復薬はかなり高価だ。

 チェノスクラスになれば万が一のことを考えて持っていても不思議じゃないけど、僕たち一年目の冒険者が買うには値段がね。

 それこそ中級回復薬を持っていても驚かれるレベルだ。


「ま、ニアちゃんは可愛いから仕方ないか」


 最後にチェノスが面白おかしく言ってきたが、何故かここにいる人たちは皆同意するように頷いていた。

 僕? まあ、否定はしないよ。

 何処で手に入れたか聞いてくる人がいたから、僕は家を出る時に餞別で貰ったと答えた。マジックリングの件もあって、驚いていた。

 副隊長やチェノスはそういうことを聞くのは失礼だと注意していた。

 実際冒険者になる者の中には、訳ありの人間は多かったりする。

 ただこのことに関しては、ニアには内緒にしておいてほしいと頼んでおいた。

 ニアが変に気にしても困るし、上級回復薬を使ったのは事実だけど、入手方法が入手方法だからね。




 その日の夜の見張りは、交代で行うことになった。

 ニアに関してはチェノスの指示で免除になった。

 明らかに疲労の色が見えたし、人によっては不公平だ、甘いなんていう人がいるかもしれないけど、下手な素人に任せる方が危険だということをここにいる皆は知っている。

 特に大きな問題は起きなかったけど、個人的には一悶着あった。


「ふん、あんたが噂の鈍足のフローか……たいしたことなさそうだな」


 見張りをしている時に近付く影があったから何者かと思ったら、それはネスたちパーティーに新しく入った者だった。

 彼は開口一番そんな言葉を吐いて、見下したように見てきた。

 それはギルド内でよく向けらえる視線で、嘲りの意味が含まれていることが分かった。

 ただそれ以上は特に何をするでもなく、ただ黙って引き返していった。

 特に恨まれることをした覚えはないけど、かなり敵意ある反応だった。

 冒険者の中には力が全てだと思っている人は多いから、自分よりも弱い者を見下すという人は一定数存在する。


「すまないな、フロー」


 一人考え事をしていたら、別の影が近付いてきた。

 声からそれがネスであることは分かった。

 ネスが言うには、あの新人は自己顕示欲が強く、そのため無謀なことをすることも多かったりするようだ。


「腕は確かなんだけどな。前のパーティーで不満が溜まっていたみたいだ」


 新人が前いたパーティーは今の生活を維持しつつゆっくり上を目指せればいいと思う人たちだったそうだ。

 良く言えば堅実。悪く言うと向上心がないという評価になるけど、危険と隣り合わせの冒険者である以上そのスタンスは間違いではない。

 ネスたちもどちらかというと堅実な方だと思うけど、違うのは一人一人の実力があるとこだ。

 実際ネスたちのパーティーの三人は、戦闘系のギフトを授かっている。うち一人は珍しい魔法系のギフト持ちだ。


「俺としては一度模擬戦をして、フローがわからせてくれると有難いけどな」


 ネスは面白そうに笑うけど、目は結構本気だった。

 根性を叩き直してくれと言っているようなものだけど、それがいい方向にいってくれればいいけど、悪い方向にいくと逆効果なんだよね。

 実際に侮って挑戦してきて打ち負かした人の中には、現実を受け止められずに態度が硬化した人もいた。

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