第15話 準備

「おう、フローか。今日は何の用だ?」


 僕がニアと一緒にやってきたのは、僕がいつもお世話になっている冒険者用品を扱っているお店だ。

 ここは隠れた名店だが、一見するとそう見えない。

 お店の多くは基本的に武器なら武器、防具なら防具と専門に扱うお店が多いなか、ここのお店は何でも置いている。

 しかも結構乱雑に置かれているからゴチャゴチャしている。

 だからそれを見た初見の客の殆どが引き返す。

 僕もチェノスに勧められてなかったらきっと利用していなかったに違いない。


「この子の装備を揃えたくて」


 僕は店主に行き先を告げて、歩く環境やニアが扱える武器の話を伝えた。

 もちろんニアも店主と話をして希望を伝える。

 店主の仕事は完璧で、予算内でニアに合う装備を揃えてくれた……いや、少しオーバーしたけど店主がおまけをしてくれた。


「あ、ありがとうございます」

「なに、いいってことよ。けど嬢ちゃん、武器を持つのはいいけど戦えるのか? フローもしっかり守ってやるんだぞ」


 その言葉にニアが可笑しそうにクスクス笑った。

 店主が怪訝な表情を浮かべたためニアが慌てだしたから、


「さっきチェノスさんにも同じこと言われたんだよ」


 と伝えた。


「この街の人は親切な人が多いですね」


 と帰り道そんなことをニアが言ってきた。

 親切な人が多いのは確かだけど、ただそれはたまたまだと思う。

 僕なんて結構絡まれたりするからね。




「すみません。また休ませて貰ってしまって……」

「いいですよ。それよりフロー、チェノスさんたちも一緒だそうですが、気を付けてくださいね」


 心配するメリッサに僕は頷いた。

 僕たちが門に向かって歩いていると、それを追い越すように走る馬車があった。


「あれは……奴隷ですか?」


 ニアの言う通り奴隷を運ぶ馬車だ。

 牢屋のような柵で出来た車体の物が多いため、一目見てそれが奴隷を運んでいるのが分かった。首には奴隷の証である首輪も見えるしね。

 それが一台、二台と走っていく。

 その数全部で四台。

 昔はもっと多かったそうだけど、奴隷は減っているという話を聞く。

 それだけここナーフ領が、平和で裕福になってきたからかもしれない。

 ダンジョンに送られるような奴隷は重犯罪者や、借金奴隷が多いらしい。


「おう、フロー。とりあえず紹介するっていっても、フローは顔馴染みだろうからニアちゃんにだな」


 チェノスに紹介されたのは警備隊の副隊長だ。

 調査は専門家がするそうだけど、この人が今回の調査隊の実質リーダーだ。

 僕が顔見知りなのは門番の仕事の時に顔を合わせることがあるというのもあるけど、メリッサの宿に時々飲みにきている。

 ちなみに彼はメリッサのファンというわけではなくて、彼の奥さんがメリッサと仲がいいからだ。


「事情は聞いています。ただチェノスも言ったと思いますが、自分の身は自分で守って貰います。私たちにも優先事項がありますから」


 僕はその言葉に頷いた。

 この人は職務に忠実な真面目な人だからな。

 彼の奥さんから融通が利かないのがたまきずなのよね、と惚気られたことがある。

 その後他の人たちも集まり、点呼が終了後調査隊は出発した。

 その中には懐かしい顔があり、相手もそれに気付いて驚いているようだった。




「フロー。お前が依頼を受けたなんて聞いてなかったから驚いたぞ」


 休憩中声をかけてきたのは、以前僕が所属していたパーティーのリーダーをしているネスだった。


「チェノスさんに無理をいって同行させて貰っているだけだよ」


 僕はネスにニアを紹介し、理由を話した。


「そうだったのか。初めまして、ネスといいます。以前フローとパーティーを組んでいた者です」

「は、初めまして。ニアです」


 ニアが緊張した様子で自己紹介をしている。


「僕としてはネスたちがこっちに戻ってきているのに驚いたよ」


 僕が離脱してから、新しいパーティーメンバーを迎えてダンジョンの方に行って活動していると聞いたからだ。


「まあ、収穫期に入るだろ? だから俺たちも追い出されたんだよ」


 ネスはちょっと納得がいかないといった感じで教えてくれた。


「ということは三階まで行くことが出来たんだね」

「まあな」


 僕の言葉に得意げに鼻を擦ったけど、すぐにあることに気付いて謝ってきた。

 ネスが謝ってきた理由は、僕がいた時は二階までしか活動出来なかったからだ。

 その理由は僕のレベルが低かったからだ。

 ネスたちは、違うと否定していたけど、僕の目からは明らかだった。

 実際適正レベルからすると、僕を除いたネスたちなら十分三階で活動出来る資格はあった。

 慣れれば四階でも戦えると思う。


「けど理不尽だよな。下の階で活動出来る奴は、収穫期の時は活動自粛しろ、てのは」


 一応お願いとなっているけど、実際は領主が許可した人以外活動が禁止されているようなものだ。

 例外は二階までしか入ったことがない冒険者なら、限定で活動の許可が出ている点だ。三階に挑戦しようとすると止められるけど。

 領主のいい分は邪魔になるからとのことらしいけど、魔物を狩る人が多ければ奴隷たちも安全に素材の回収作業が出来ると思うけど、領主としての考えは違うみたいだ。

 それにダンジョンは下の階に行くほど広く複雑になっているから、素材の回収部屋に近付かなければ邪魔になることはないと思うけど、方針は変わらない。

 冒険者ギルドからも交渉はしているみたいだけど、聞き入れられない。

 ただそれだと不満が多くなるため、収穫期が終わった後は、しばらくの間三階以降に出る魔物の魔石や素材の買取価格が高くなるように手を回しているという話だ。

 これは冒険者がこの街から離れないようにするための措置みたい。


「ま、困ったことがあったら遠慮なく言ってくれよな。俺たちとフローの仲だしよ」


 ネスが仲間たちに振り返り言えば、一人を除き笑顔で頷いていた。

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