第14話 相談
「凄かったです」
ニアはまだ少し興奮しているようだった。
心なしか普段よりも声が弾んでいるように聞こえる。
それはたぶん現在見えている光景も関係しているのだと思う。
ニアの肩に乗るププルも体を小刻みに震わせている。
あれはたぶん景色に感動しているんじゃなくて、久しぶりに外に出られて喜んでいるんだと思う。
ニアに頼まれて、とりあえずここにいる間だけププルを呼ぶことを許可した。
狡いですよね。瞳を潤ませて上目遣いに頼むとか……。
僕が二人から視線を外して目線を上に向けると、そこには鐘楼の鐘がある。
僕たちは鐘楼で上がれる一番上のところまで上ってきた。
そこからはライルラスの街を一望出来るし、防壁よりも高いから街の外を見ることも出来る。
僕はふと視線を移動させてある場所を見た。
ニアもそれに気付いたのか追うようにそちらを見て、
「あっ」
と小さく声を上げた。
それはニアが転落したと思われる峠のある方だった。
「ごめん。嫌なことを思い出させたかも」
僕が謝ると、ニアはジッと見ていた視線を戻し、
「……大丈夫です。それよりもフローに相談があります」
と言ってきた。
「相談?」
「はい。昨夜チェノスさんが転落現場に行くって話をしていましたけど、それに私も付いて行くことは可能でしょうか?」
理由を聞くと、あれから荷物を何度も確認したけど、どうしても見つからないものがあるそうだ。
僕に頼もうかと思ったけど、森を抜けてあそこまで行くのは危険だと、仕事中に冒険者の人たちから聞いて頼めなかったそうだ。
それで半ば諦めていたところに、昨夜チェノスが調査で現場に行くという話を聞いて一緒に行くことは出来ないかと思ったようだ。
部屋に戻る時チェノスのことを気にしていたのは、これが理由かな?
まあ、確かに一人で行くのは危険かもしれないけど、話を聞かれた人たちはニアが行くと思ったんじゃないのかな?
「……んー、どうなるかは分からないけど聞くだけ聞いてみようか?」
僕の言葉にニアはパッと顔を明るくした。
そんな表情をされると、是が非でも同行の許可を取らないと、と思ってしまう。
もう少しだけここに残り景色を楽しみ、お腹が空いたから戻ることにした。
ププルは階段を下りる前に黒い球体の中に戻っていった。
最後までニアに甘えるように、頬にスリスリと身を寄せていた。
「フローはここに何度もきているのですか?」
「……これで三回目かな? 街の人たちも何度かきたらあまりこなくなったりするかな?」
一度目は街に引っ越してきた時にメリッサ夫婦に案内されて、二度目はジニーに頼まれてきたことを話した。
「そうなのですね。素敵な場所だから、もっと人で賑わっていてもいいと思ったのですが……」
「あー、まあ、人がいる時はいるかな? あとは時間がお昼と重なるから少ないんだと思う」
その言葉にニアは納得したように頷いていた。
……ここを訪れる人の多くがデートの時に来ることは内緒にしておこう。
「それでお昼はどうしようか? メリッサのところでもいいけど、折角だし屋台で食べようか?」
その言葉にニアは少し間を置いてからコクリと頷いた。
それからいくつかの屋台を回り、食べ歩いた。
ニアは終始楽しそうにはしゃいでいたけど、理由を聞いたら屋台の料理を食べるのは今回が初めてだと言った。
「他の街に寄った時も食べなかったの?」
と聞いたら、
「……うん。一緒に旅をしていた人たちに止められていたから……」
と答えが返ってきた。
「ん? フローにニアちゃんじゃないか……デ、二人してどうした?」
今デートと言おうとしたね。
ニアにはチェノスは開口一番揶揄ってくるから相手にしない方がいいよと言っておいたけど、途中で言葉を止めたのをみると昨夜メリッサから怒られたに違いない。
メリッサはジニーと同じようにニアを可愛がっているからね。
「昨夜の話なんだけど……」
と僕は話を切り出し、ニアの希望を伝えた。
チェノスは腕を組んで迷っていたけど、
「俺たちは俺たちの仕事がある。何かあってもニアちゃんのことを助けることは出来ない。だから……フローが責任持って守るなら構わねえよ」
と僕を見て言ってきた。
僕は重々承知しているから頷いた。
それはニアにも伝えてある。
同行を許可して貰えただけで十分だ。
僕としては頼みにきたけど断られることも覚悟していたからだ。
僕としても二人だけで行くのは危険だと思うし、人が多くいるということだけで利点もある。
一番は盗賊に狙われにくいというところかな? 規模が大きいところは関係なく襲ってくるけど、小規模な盗賊なら襲ってくることはないだろう。
チェノスたち以外にも雇われた冒険者はいるみたいだし、警備隊の人を合わせると三十人以上はいるって話だ。
逆に人が多いことで、魔物に見つかりやすいという危険はある。
だけど今回の場合はそれ程心配しなくていいと思う。
向かう先に出る魔物はゴブリンやウルフが殆どだからね。
それにチェノスたちパーティー他、腕のいい冒険者も多く参加するみたいだし。
僕は詳しい出発の時間を聞くと、ニアを伴って次の目的地を目指した。
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