第12話 調査
ニアがメリッサの宿に泊まるようになって一週間が経っていた。
翌日には部屋に空きが出来たから、そのまま滞在している。
商業ギルドを通じて知り合いに連絡を取って、今はその返答を待っているそうだ。
僕はというと、変わらずパーティーの募集を確認しながらソロ活動に勤しんでいる。
ウルフやゴブリンを相手に生活費を稼ぎつつ、レベル上げとレンタルの取得ポイントを貯めている。
一度ゴブリンの集団と戦うことになったけど、地形を利用しつつ時間をかけて一人で討伐した。もちろんレンタルを使わずに。
投擲用のナイフもしっかり補充したしね。
前回の討伐では在庫がなくなっていたから仕方なくポイントで呼び出しただけだし……うん、反省しよう。
討伐証明の部位をシエラさんに見せたら、
「また無茶をして……気を付けてくださいね」
と注意された。
これでも倒せる算段があったから挑んだわけだけど、傍から見たら無茶だったかもしれない。
夕食の席でニアにも話したら、物凄く心配された。
そのニアはというと、実はメリッサの宿で働いている。
本人が暇を持て余していたら、働いてみないかと誘われたそうだ。
ただ僕は知っている。ニアが興味を示していたことを。
それを知っているから、メリッサも声をかけたんだと思う。
「……フローはその、明日もギルドに行くの?」
夕食を食べ終えたところで、ニアが話しかけてきた。
メリッサの宿で働くようになったら、ニアの僕の呼び方が変わった。メリッサに提案されたらしい。
そのニアは基本ジニーと一緒にお昼の時間帯に働き、夜は忙しい時だけ手伝っている。
僕がニアを連れて戻ってきた日にジニーがまだお店にいたのは、忙しかったわけではなくて僕が帰ってくれるのを待っていてくれたらしい。
そのジニーは夕食を食べ終わった早々一人部屋に戻っていた。
何でも今日は、お昼の仕事が終わったあとにニアと街中を散策して疲れたとのことだ。
きっとジニーのことだ、張り切って案内したに違いない。今では大の仲良しだからね。
「明日は休みかな? シエラさんにも休みなさいって言われたからね」
「シエラさん?」
「冒険者ギルドの受付を担当している人だよ。僕のギルド登録をしてくれた人でね。その縁で何かと気にかけてくれているんだ」
僕はその当時のことを思い出し懐かしくなった。
あの頃は分からないことだらけで、本当にお世話になった。
それはシエラさんだけでなく、チェノスをはじめとしたライルラスの街の古参の人たちも同様だ。
「そう、なんですね……」
ただ楽しそうに当時のことを話す僕とは対照的に、返事をしたニアは少し元気がなかった。
何かあったのかな?
「おうおう、お二人さん。食堂の片隅でデートか?」
そこへジョッキを持ったチェノスが突然現れた。
鼻の上に赤みが出ているから、もう出来上がっているな。
ニアは相変わらず
「チェノスさん、あまり変なことを言うならメリッサさんに言い付けますよ?」
その言葉にチェノスは、
「はは、冗談だ、冗談だ。ちょっとした挨拶みたいなもんだろ?」
と明らかに狼狽えていた。
分かりやすい人だ。
「それで何か用ですか? まさか揶揄うためだけに話しかけてきたわけじゃないですよね?」
僕はことさらだけ、を強調して言った。
「あ、ああ。もちろんだ。ニアちゃんにも関わりがあることだから伝えておこうと思ってな」
その言葉にニアは首を傾げていた。
「ニアちゃんが被害にあった現場の調査を行うらしい。本当はもっと早くやる予定だったんだけどな。今は色々立て込んでいたみたいで人員が足りなかったようだ。結局ギルドの方に依頼がきて、俺らが行くことになった」
チェノスの立て込んでいるというのは、ダンジョン関連だろう。
この時期は収穫期だから、奴隷を使って回収に向かう。
ライルラスの街近くにあるダンジョン——通称・蜘蛛の巣は、スパイダー系の魔物が多数出現する。
スパイダー系の魔物が作り出す糸は上質なものが多く、年に二度糸を大量に生み出す時期があるのだ。
とはいえダンジョン内ということで、その作業中に多くの人が亡くなる。
糸を回収させないように魔物も襲ってくるし、特にこの時期は凶暴化するとも聞く。
ただその辺りは領主が主導になって手掛けているという話で、領主直属の騎士団や奴隷を中心に作業しているそうだ。
それでも手が回らない時に、懇意にしている冒険者に指名依頼を出してくる。
「ま、俺らには縁のない依頼だな」
チェノスは嫌そうな表情を浮かべて言った。
それは領主から依頼を受けているという冒険者を、チェノスが嫌っているからだ。
僕も彼らはちょっと苦手だな。
高圧的で、他の人たちを見下すような人たちだ。
特にレベルの低い冒険者には当たりが強い。
チェノスはそれだけ言って仲間の席に戻って飲み出した。
出発は三日後のため、今日は英気を養うため浴びるように飲むとのことだ。
僕からしたらいつも浴びるように飲んでいるような気もするけど……。
僕はそんなことを思いながら、今日は部屋に戻ることにした。
明日休みを入れたのは、シエラさんに注意されたというのもあるけど、確かに連日依頼を受けたことで僕自身疲れていたというのもあったからだ。
僕が部屋に戻ることを告げると、ニアも一緒に戻ることになった。
ニアは少しチェノスの方をチラチラ見ていたけど、何か気になることがあったのかな?
並んで階段を上る僕たちを見て、常連の人たちが囃(はや)し立てると、ニアは顔を真っ赤にしてしまった。
ただ僕はその様子を、ちょうど厨房から出てきたメリッサが見ていたのに気付いた。
微笑みを浮かべていたけど目は笑っていなかった。
ああいう時のメリッサは正直言って怖い。メリッサもニアのことは随分気に入っているみたいだしね。
雷が落ちるなと思いながら、僕はニアを促して足早に避難するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます