第11話 血の雨?
門番の詰め所となっている一室に入ると、ニアの楽しそうな声が聞こえてきた。
「あ、フローさん」
僕に気付いたニアが、席を立って寄ってきた。
「ふ、お前の数々の武勇伝をニアちゃんに教えてやったぞ」
そんな自慢げに言われても困る。
それにその話は、面白おかしく尾ひれが付いている可能性が高い。
ニアに確認するのも恥ずかしいし、墓穴を掘るかもだし黙っているのが一番か?。
詰め所を後にした僕たちは、並んで歩きながらメリッサの宿を目指した。
道中また声をかけられたけど、隣を歩くニアを見ると驚いたような反応を示した。
「ついにフローにも春がきたか……」
「ジニーちゃんの怒り爆発だな。血の雨が降るぜ」
「今日は俺もメリッサさんのところに飯を食いに行くか……」
等々好き勝手な声が聞こえてくる。
ニアにもその声は聞こえたみたいで、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
その反応が話題に拍車をかけるわけなのだけど……今そのことを指摘すると逆効果かもしれないと思い黙っていることにした。
メリッサの宿へは、詰め所を発ってから十分ほどで到着した。
宿の中に入ると、今日も盛況のようで空いている席がない。
メリッサの作る料理はお世辞抜きで美味しいからね。
宿泊客以外にも普通にご飯を食べに来るだけの人もいる。
メリッサの姿が見えないのは奥の厨房で料理を作っているからだろう。
従業員二人に混じって、ジニーも料理を持ってテーブルの間を動き回っている。
「あ⁉ お兄ちゃん!」
料理を運び終わったところで、ジニーと目が合った。
ジニーはトコトコと早歩きで近付いてくると、
「お兄ちゃん何処行っていたの! 心配していたんだからね‼」
とプクっと頬を膨らませた。
周囲ではそれを見たお客さんが、ジニーのことを暖かな目で見ている。
「討伐依頼で外に出ていたんだよ。それよりもメリッサさんと話がしたいんだ」
メリッサとジニーだけの時は呼び捨てにするけど、人がいるところではメリッサさんと呼ぶことにしている。
「……お母さんと?」
首を傾げて聞いてきたジニーの目が、そこで初めて僕の隣に立つニアを捉えた。
「お兄ちゃん? その人誰?」
ジニーの声がいつもよりも低くなったのが分かった。
一瞬、周囲の喧騒が止んだけど、すぐにまた五月蠅くなった。
「その説明をメリッサさんにしたいんだよ」
「……分かった」
ジニーもここでは詳しい話は聞けないと思ったのだろう、素直に案内してくれた。
「お母さん!」
「ジニー、どうしたの? 料理の追加注文が入ったの?」
厨房には忙しく料理を作っているメリッサがいた。
手元に集中しているようで、こちらからは背中しか見えない。
「お兄ちゃんが帰ってきたよ!」
「えっ、フロー様が⁉」
振り返ったメリッサは、僕の姿を見て安堵の表情を浮かべた。
「メリッサさん、料理中なんですから危ないですよ」
「! そうですね。少し待っていてください」
僕の指摘にメリッサは料理の続きを始めると、まるで魔法を使っているかのように瞬く間に注文されていたと思われる料理の数々を作っていった。
その間僕たちは邪魔にならないように退避していた。
メリッサから料理は習っているけど、今の状況で手伝いに入ると逆に足を引っ張るだけだからね。仮に手伝えることがあるとしたら、出来上がった料理を運ぶぐらいだ。
「それでフロー……、そちらのお嬢さんは?」
隣に立つニアを、メリッサは観察でもするように見た。
たぶん僕が連れてきたからだろう。
相手が冒険者ならギルドの仲間だと判断してそれ程気にしないけど、ニアは明らかに冒険者には見えないからね。
あと僕が昨日帰ってこなかったのも関係しているかもしれない。
それと品定めをするようにニアを見ているのは、メリッサなりに僕のことを心配しているからだ。
悪い女に引っ掛からないようにとか?
僕だって……うん、色々助けて貰ったな。街にきた当初は、ね。
ニアはその視線を受けて居心地悪そうにしている。
僕はメリッサとジニーに、ニアがここにいる理由を話した。
「そうだったのですか。それは大変でしたね」
一転して笑顔を浮かべるメリッサに、ニアは戸惑ったままだ。
だから今度は僕がメリッサについて説明することになった。
曰く母親代わりのような人だと、ニアだけに聞こえる声で。
いや、さすがに本人に聞かれるのは恥ずかしいからね。
「それで部屋の方は空いているかな?」
「ごめんなさい。今は空いている部屋はないのです……が、そうですね。この時間ですと他の宿を探すのも大変ですし、今日は私たちの部屋に泊まってください。ジニー、案内してあげて。それと食事はまだでしょう? 後で持って行きますから、フローと三人で食べるといいですよ」
「うん、お姉ちゃんいこう!」
ニアはジニーに手を引かれて行ってしまった。
「ふふ、一緒の部屋の方が良かったですか?」
二人が視界から消えるのを待って、メリッサが楽しそうに聞いてきた。
最初は警戒していたのに、この掌の返し用は……。
「一緒の部屋になっていたらニアにベッドを使って貰って、僕は床に寝ていましたよ」
下手に隙を見せるとさらに切り込んでくることを知っている僕は、これ以上追及されないように話を切り上げた。
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