第9話 帰り道
「足元に気を付けて」
「そこは危ないから手を貸すよ」
最初は元気が良かったニアも、一時間ほど森の中を歩いたら疲労が色濃く出てきた。
「すみません。足手まといになってしまって……」
肩で息をするニアに水を渡して休憩を取ることにした。
額には汗が浮かび上がっているし、元々体力がないのか、普段あまり歩いてなかったのかもしれない。
聞けばここまでの旅の移動は全て馬車を利用していたという話だし、話し方も丁寧だしいいところのお嬢様かもしれない。
お嬢様でも例外はいるけど。
「言いたくなかったら言わなくてもいいけど、ニアのレベルはいくつになるの?」
これで僕の倍以上のレベルだったら反応に困るところだ。
「……3です」
小さな声が辛うじて僕の耳に届いた。
移動開始時色々話したことによって、僕とニアは一歳差であることが分かった。一応僕が年上だ。
確かに十四歳でレベルが3というのは……別に珍しいことではないと思う。
そもそもレベルは魔物と戦うか魔石を使うかしないと上がらないわけだし、ニアが率先して魔物と戦っている姿は想像出来ない。
一応移動するにあたり、
「なら街に到着するまでパーティーを組もうか?」
と提案してみた。
「えっ、ご迷惑じゃないですか?」
「僕のレベルは8だし、問題ないよ」
レベル差が10あっても気にせず組んだと思うけど。
ただ10も差が付いていると、パーティーの制限を知っている人の中には遠慮する人もいる。
僕もそうだったからね。
もっとも僕も普通の速度でレベルが上がるなら喜んでいたかもしれないけど。
「それは本当ですか⁉」
僕のレベル8という言葉に、ニアは心底驚いているようだった。
「……あの、本当にいいのですか?」
「もちろんだよ」
「……よろしくお願いします」
ニアが右手の掌を向けてきたから、僕もそこに合わせるように掌を添えた。
どうやらパーティーを組む方法はニアも知っていたようだ。
ただあまり男性慣れしていないのか、掌を合わせただけでもニアは頬を赤くしていた。
僕も女性慣れしているかと聞かれると……まあ、そこは冒険者として女性と接する機会はそれなりに多かったからね。
お互いに掌を合わせたら、頭の中に言葉が浮かんだ。
『パーティーを組みますか?』
どういう仕組みになっているかは分からないけど、ここでお互いが了承するとパーティーを組むことが出来る。
パーティーを組むメリットは、パーティーの誰かが魔物を倒すと、近くにいるパーティーメンバーにも経験値が入ることだ。
ただし魔石による経験値の取得では入らない。
あとは互いの位置が分かることかな?
これは任意で、知らせたくない時は隠すことも出来る。
離れ過ぎると分からなくなるけど、街の外で受ける依頼やダンジョンなどではぐれた時に重宝する。
あくまで何となく向こうにいるかな? というのが感じられるようになるだけで、正確な位置までは分からないけど。
「それじゃ行こうか?」
頷くニアを確認したら、再び歩き出した。
「止まって」
僕は周囲を警戒しながら、地面に残った足跡を観察した。
状態を見る限り真新しい気がする。
それはこの近くにウルフがいるという証拠。行く時に遭遇していたら、きっとニアに会うこともなかった。
足跡の大きさの違いから三体だと推察出来る。
大きくは間違っていないはずだ。
「大丈夫でしょうか?」
僕が状況を説明すると、ニアは心配するような目を向けてきた。
「なに、大丈夫だよ。三体のウルフぐらい余裕さ」
僕は安心させるため努めて明るく言った。
そんな僕の様子を見てニアは安堵しているようだ。
確かに三体程度なら問題ない。
あくまで一人で戦う、ならだけど。
万が一の場合はまたレンタルに頼ることになるかもしれない。
と思っていたけど、今回は運が味方してくれた。
「ニア、少し隠れていて。ウルフを見つけた」
僕の言葉にニアが緊張したのが分かった。
一応着替えた時に護身用に槍を用意していたけど、それを持つ手は震えている。
「大丈夫だよ。ププル、ニアのことを頼んだよ」
ププルが体を震わせるのを確認すると、僕は一気にニアたちから離れた。
ニアからある程度離れたら地面に落ちた枝を踏んで音を発て、枝葉を揺らしてさらに派手な音を出す。
ウルフが僕の方を見て、唸り声を上げて駆けてくる。
僕は手に持つ剣を十二分に振るえる場所まで移動するとそこで迎え撃つ。
ウルフはニアに気付いた様子もなく、真っ直ぐ僕に向かってきた。
勢いそのまま跳びかかってきたけど、僕は最低限の動きで攻撃を躱しながら、すれ違い様に剣を振るう。
ウルフは三回の攻撃で動かなくなり、あっけなく戦闘は終了した。
一応簡単に倒せたのは、ウルフが単純な攻撃しか出来ないように誘導したためだ。
木を利用して動きを制限すれば、読みやすいからね。
これも経験の為せる業だ。
僕がウルフの死体をマジックリングに収納して戻ると、そこには両肩を抱いて蹲っているニアの姿があった。
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