第7話 ニア
◇ ニア視点・1
私の名前はニア・アルスフィア。アルスフィア皇国第一王女です。
私の国には皇族のみが入ることが出来る秘密の部屋が存在します。
そこにはアルスフィア皇国初代皇帝にして、魔王を討伐した五英雄の一人、オルタ様の残した石碑が存在します。
その石碑の前で、私たち皇族は祝福の儀を受けることになっています。
私も十二歳になった時、そこでお母様に見守られながら祝福の儀によってギフトを授かりました。
【闇魔法】
それが私の授かったギフトの名前です。
それを伝えた時、お母様の顔は緊張で強張っていました。きっと私も同じだったに違いありません。
私が祝福の儀で授かった闇魔法のギフトに関する伝承が、代々皇族に伝えられていたからです。
闇魔法それは遥か昔、一人の少年が祝福の儀で授かったギフト。
彼の名前はルース。世界に戦いを挑み、災いを撒き散らした魔王の名前です。
パチパチという音が聞こえてきました。
私が目を開けると、目の前には暗闇の中に浮かぶ無数の光が見えました。
徐々に意識が覚醒していくと、それが夜空に浮かぶ星だということに気付きました。
ふと気配を感じて顔を横に向けると、そこには一体のスライムがいました。
「……ププル?」
それは私と契約したスライムのププルです。ププルは私が付けた名前です。
名前の由来は……ご想像にお任せします。
ププルと契約出来たのは、祝福の儀で授かった闇魔法の能力の一つです。
ププルは私が呼びかけると、『良かった~』と嬉しそうに飛び跳ねてスリスリと頬に身を寄せてきました。
ちょっとひんやりしたププルの体と、プニプニボディーの感触が気持ち良いです。
「目を覚ましましたか?」
ププルに癒されて思わず頬が緩んだその時、突然声が聞こえてきました。
私はドキリとして声のした方に顔を向けると、焚火の向こう側に誰かいました。
声質からして男性だと思いますが……誰です?
私はププルを隠しながら上半身を起こしました。
その拍子に体にかけてあった何かが落ちましたが、それよりも違和感を覚えました。
そうです……あの時私は……。
脇腹に目を落とすと、服に穴が開いていましたが、痛みはありません。恐る恐る脇腹に手を添えましたが、傷はありません。
「大丈夫ですか?」
再び声がして、今度こそ私はそちらにしっかりと顔を向けました。
そこにいたのは一人の男の子で、知らない子です。
ただ私のことを心配してくれているのが、その表情から分かります。ちょっと顔が赤いのは、焚火の光のせいでしょうか?
「あ、あの……ここは……」
声を出そうとして咳き込んでしまいました。
すると目の前の男性が立ち上がりこちらに近付いてきました。
緊張で体が強張るのが分かりました。
男の子は何かを察したのか苦笑を浮かべて、私にあるものを渡してきました。
「水です。飲むといいですよ」
私を怖がらせないためか、その男の子は丁寧な口調で話しかけてきました。
身なりと森の中という状況からたぶん冒険者の人だと思いますが、私がここまで見てきた冒険者の人たちは、気性の激しい人ばかりでしたので驚きました。
私が受け取ると、男の子は元の位置まで戻り座りました。
距離を取ったのは、きっと私が警戒していたから、安心させるためですね。
私はそれを……一度躊躇しましたが飲むことにしました。
失礼かもしれませんが、毒が入っているかと思ったからです。
ププルが『大丈夫だよ~』と言っているような気がしたから飲むことが出来ました。
「あ、ありがとうございます。私はニア……ニアといいます」
「僕はフローです。冒険者をしています。一応何があったかを説明させて貰いますね」
フローさんの話を聞いていくうちに、私は何があったのかを思い出しました。
私は、私たちはアルスフィア皇国からヴァルハイト公国を目指して旅をしていました。
アルスフィア皇国を発った私たちが、リュゲル王国のサンクトス領からエキスラ領に入り、王都リュゲルを目指して移動していた時のことです。
私たち一行は目的地を同じくする商隊と共に進んでいましたが、そこで盗賊の襲撃を受けたのでした。
その襲撃で私は負傷して、守って貰いながらどうにか馬車の中に退避することが出来ました。
ただそこで私が乗り込んだ馬車が暴走してしまって、護衛のセシリアたちと離れ離れになってしまったのです。
朦朧とする意識の中で見たのは、確か馬車が崖から転落するところだった気がします。
けどフローさんの話を聞くと、それは夢ではなく現実に起きたことなのだと分かります。
「ですけど……」
思わず言葉が口から出たのは仕方がないと思います。
あの馬車は確かに頑丈に作られたものではあると思いますが、フローさんの言う高さから落下したらさすがに壊れると思ったからです。
それとも私が知らなかっただけで、もっと頑丈なものなのかな?
その時です。
く~という音が鳴りました。
それは私のお腹から聞こえてきました。
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