第6話 パーティーシステム

  ◇ ???・1


「反応が消えたっす」


 奴が手に持つペンダントに目を落とす。

 銀色だった宝石が黒くなっている。

 それは彼女に渡したペンダントが壊れたことを意味する。

 なら彼女は……。


「そっちはどうっすか?」


 その言葉にハッとした。

 私は後ろを振り向いて……確認した。


「照れなくてもいいっすのにー」


 背後からそんな言葉が聞こえてくるが無視する。

 ……変化なしだ。

 ホッと胸を撫で下ろす自分がいた。

 そんな資格私にはないのに。

 それに……彼女が生きているとあの子が……。

 私は首を左右に振って答えた。


「そうっすか……しぶといっすね。確かにあれは致命傷だと思ったんすけど。それに計画では崖から転落することになっていたはずっすが……それでどうするっすか?」

「やることは決まっている。ただ……今は動けない」


 仲間が負傷していて動けない。それに……。


「あの確認も必要っすね。それとは別に噂の証拠を見つけられたら、援助を受けることが出来るかもっすからね」


 援助か……。

 その言葉に苦笑が漏れる。

 とりあえず今は街まで移動し、連絡がくるのを待つしかないか。


  ◇◇◇


 パチパチと弾ける火の音を聞きながら、僕は右手の手の甲に目を落とした。

 意識を集中すると、そこに8という数字が浮かび上がり、その数字を囲うように円が描かれている。

 その円はあと少しというところで線が途切れていて、完全な円にはなっていない。

 どうもこの円は魔物を倒すごとに線が伸びていき、完全な円になるとレベルが上がる。

 ちなみにこの数字とそれを囲う円は本人にしか見えない。


「やっぱりレベルは上がっていないか……」


 僕の呟きにスライムが震えて反応を示したけど、すぐに女の子に寄り添って動かなくなった。

 レベルが8になったのは二カ月前だから、鈍足なんて二つ名がつくはずだ。

 冒険者として活動してそれなりに魔物を狩っていれば、早ければ三カ月もあればレベル10を超えてもおかしくない。普通に活動していれば半年もあれば10になる。というのが多くの人の認識だ。

 もちろんレベルが上がる速度は個人差があるようだけど、それでも僕は遅過ぎた。

 実際その期間組んでいた前のパーティーメンバーたちは、三カ月の間に15から19まで上がっていた。一応これはかなり早い部類に入るとだけいっておく。

 この世界には不思議なルールがあって、その一つがパーティー制度。これはパーティーを組める人数が六人と決まっていて、それ以上の数で組むと魔物を倒した時の成長が著しく下がる。

 実際六人を超してパーティーを組んで魔物を倒すと、本来得られるはずの経験値が入らない現象が確認されている。全く入らないわけではないみたいだけど。

 もう一つがレベル制限。パーティー間のレベル差が10を超すと得られる経験値が減るというものだ。

 何故そのようなルールがあるかは未だ謎だ。


「魔石か……どうしようかな?」


 僕はウルフから回収した魔石を見ながらどう使うかを悩んだ。

 魔石は冒険者ギルドに持っていくと買い取ってくれる。

 魔石には魔道具の燃料としての使い道と、レベルを上げるために使う方法がある。

 利き手(レベル表示が出来る手)に魔石を握り、『吸収ノイン』と唱えることで魔石を自分の中に吸収することが出来る。

 魔物の魔石は強い奴ほど大きく色が濃くなり、経験値を多く入手することが出来る。

 王族や貴族の中には魔石を買い漁り、ある程度のレベルまで上げるという方法を選ぶ人もいる。

 ただレベルはあくまで身体能力などが上がるだけだから、戦う方法……技術を伸ばすには実際に鍛練をする必要がある。

 戦闘系のギフトを授かれば多少は違うけど、ギフトはあくまで人よりもスタート地点が有利というだけで、ギフトだけ持っていてもそれを使いこなすことは出来ない。

 というのを、僕は冒険者になって知った。

 ライルラスの冒険者ギルドの中には戦闘系のギフト【初級剣術】や【初級槍術】を授かった人もいるし、なかには【中級剣術】持ちもいる。

 だけど模擬戦をした時にそれ程の力の差を感じなかったというのが、僕が実際に戦って受けた印象だ。剣術の基礎を習っていたというのも影響しているかもだけど。

 ギルドに入った時に話しかけてきたチェノスは初級槍術を授かっていて、戦闘技術は高い。

 そのチェノス相手に僕は勝てないまでもいい勝負をする。

 そのため対人戦に限りだけど、チェノスたちや古参の冒険者からは高く評価されている。

 まあ、チェノスが僕のことを気にかけてくれるのは、僕がメリッサと親しいというのも関係しているようだけど。

 僕をだしに使って、わざわざ宿の方に食事をしにくることもあるからね。

 ちなみにギフトの公表は自由だけど、戦闘系のギフトを持っていればパーティーを組みやすいという利点があるから、戦闘系のギフト持ちは公表している人が実際に多い。




「レベルは上がらないか……」


 ウルフの魔石を六個吸収したけど、線の伸びは殆ど変わらずレベルは上がらない。


「けどレンタルの取得ポイントは増えた、か……」


 もっとも取り戻せたのは投擲用のナイフ(五本セット)で消費した分ぐらいだけど。

 僕は呼び出したレンタルのリストに目を通しながら、疾風の杖と上級回復薬を確認した。

 普通レンタルで呼び出したアイテムは、一時間ほど経過すると再度呼び出すことが出来るようになる。

 ただし、回復薬などの消耗品を使用したり、呼び出したアイテム——装備品が大きく破損すると最低でも十日間は使うことが、選ぶことが出来なくなる。

 これは以前に下級回復薬を使ったことがあったのと、別の魔法の杖や装備品で体験済みだ。

 案の定、リスト上の疾風の杖と上級回復薬の文字は灰色になっていて選択することが出来ない。

 魔法の杖は同じような強さの他属性のものがあるから困らないし、上級回復薬に至ってはそもそも残りポイント的に使うのは難しい。というか使うのを躊躇う。

 ポイントを貯めるというのは、大変なんだよね……特に強い魔物をソロで狩ることが今のレベルでは難しいから。

 そもそも今回の戦闘は、馬車の中に誰かがいるかもしれないと思ったから戦いを仕掛けたけど、本来なら戦いを挑もうと思わない。

 あれだけの数のウルフをソロで倒せたのは、あくまで疾風の杖あってこそだから。

 もちろん入念な準備をして場所などの条件が揃えばやれるかもしれないけど。


「まあ、地道にまたポイントを貯めていくしかないか……」


 取得ポイントが貯まっていけば、そのうちレベルも上がるだろうしね。

 

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