第5話 スライム?
野営の準備が終わると、ひとまず回収出来たウルフの死体から魔石を抜き取った。
回収出来たウルフの数が六体になったのは、疾風の杖を暴走させたことによる被害が大きかったからだ。他は原型を殆どとどめていなかったからね。
本来なら燃やすなりして処分すべきだけど、それをするだけの余裕がなかった。
僕のマジックリングの性能だと、死体をこのまま入れておくと腐ってしまうから早めに解体したいところだ。
一応三日間は状態を保つことが出来るからそれまでに解体出来れば問題ないけど……。
解体すれば肉保存用の袋に入れることが出来るけど、一体丸ごとは入りきらない。肉だって部位によって食べるところと食べないところ。美味しいところと不味いところがあるからね。
「最悪肉は駄目になっても仕方ないかな」
ウルフなら毛皮が売れるから多少のお金にはなる。
ただ状態はすこぶる悪いから買い叩かれると思う。一応何体かは状態の良いものがあるからそれに期待かな?
僕はひとまず食事を済ませると、傍らに眠る女の子を眺めた。
胸が上下する動きがあるから眠っているだけだと思うけど、血を失っていることを考えると心配だ。
しばらくその様子を眺めていたけど、不意に昔言われた言葉を思い出して視線を逸らそうとしたところで、女の子のお腹の辺りが突然膨らんだ。
その膨らみはお腹から胸へと移動していき、やがて胸元から透明な水色をした物体——スライムが現れて、コロコロと転がって女の子の体から落ちた。
僕は驚くよりも先に腰を浮かせ、剣に手を伸ばしてスライムを退治しようとした。
けど危険を察知したのかスライムはプルプルと一際大きく震えると、思いのほか素早い動きで女の子の体の陰に隠れてしまった。
隠れたといっても僕が回り込めば簡単に攻撃出来るけど、そのスライムが一度は隠れたのに再び姿を現し、まるで女の子を守るように僕と女の子の間に割って入った。
その動きを見て不思議と倒そうという感情が消え失せた。
僕が腰を下ろして剣を地面に置くと、スライムも警戒を解いたのか女の子に寄り添ってプルプルと震えていた。
そういえば昔読んだ本の中に、魔物を従えて冒険に出た少年の話があった。
あれは確かカルディア聖王国から出版された本だったはず。あとで知ったけど、その本は貴重なものらしくもう新たに入手することは不可能とのことだ。
貴重というのは、この世に出回っている本の殆どが歴史になぞられた英雄譚が多いのに、あれは作家本人が考えたオリジナルの創作物だかららしい。
聖王国といえば魔王を倒した英雄の一人、【光魔法】のギフトを授かったオーラルが生まれた国だ。
……ミレアは元気にしているのだろうか?
「女性の寝顔を見るなんていけないことなんだからね!」
と、ミレアに昔言われたのを思い出したのと、彼女が祝福の儀で光魔法のギフトを授かったからだ。
ミレアと最後に会ったのは母上の葬儀の時だった。
その時には既にミレアとの婚約は解消されていたけど、わざわざ母上の最後を見送りにきてくれた。
僕は一つため息を吐いて思い出を頭の中から追い出した。
ミレアのことを考えると、今でも少し胸が痛むから。
「ひとまず寝る準備をしよう」
火を起こし、女の子の体が地面に直に触れないように落ち葉を集めてその上にシーツを敷いたけど、夜は意外と冷える。
とりあえず予備のローブをかけておくかと思い、
「この血……着替えさせたいところなんだけど……」
改めて血で汚れた服をどうにかしたいと思ったけど、寝ているとはいえ僕がやるのは色々と問題がありそうだ。回収した鞄の中に予備の服があるとしても。
「僕に生活魔法が使えれば、この血の汚れも綺麗にすることが出来るのに」
生活魔法の中には、汚れを落とすことが出来る洗浄魔法がある。
生憎と生活魔法用の魔道具なんてものは存在しないから、レンタルをもってしても対処は不可能だ。
ローブを持ったままどうするか悩んでいると、まるで僕の独り言に応えるようにスライムがピョンピョンと跳ねて自己主張をしてきて、女の子の上に飛び乗った。
そして次の瞬間スライムは膨張したかと思ったら女の子を包むように広がっていった。
「……嘘だろ……」
それを見て思わず言葉が出た。
女の子の体を包み込んだスライムは、透明な青色から赤色に変化し、やがて青色に再び戻ったと思ったら女の子から離れた。
その時にはスライムの大きさも元のサイズに戻っている。
心なしかスライムを見ると、
『どうだ~!』
とでも言いたげにプルプルと震えている。
赤色に染まっていた女の子の服からは血の色が消えて、キラキラと輝いて見える。
それはまるで洗浄魔法をかけてもらった時に体験した光景に似ていた。
「やるじゃないか」
感心して称賛の言葉をかけたら、スライムは女の子から飛び降りてピョンピョンと飛び跳ねている。
一応喜んでいるのかな?
その様子を眺めながら、僕はローブを女の子にかけると、元の場所に座って焚火に木をくべた。
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