第3話 魔法の杖
「あのウルフたちを倒すのに必要な武器は……」
僕はリストの中のアイテム名とポイントを確認しながら頭の中で戦い方を組み立てていく。
僕のレベルであの数のウルフを一人で相手取るのは、他の人が見たら自殺行為だと止めるはずだ。
ウルフと戦うための適正レベルは、冒険者ギルドの発表だとレベル5ということになっている。
ちなみに今の僕のレベルは8になるから適正レベルよりも上だけど、それはあくまで一対一で戦った場合だ。一人で複数体と戦うなら、適正レベルはもっと高い。
しかも今回はウルフの数が十体を超して十一体いる。
それでも僕が戦おうと思ったのは、興奮したウルフの様子と、馬車の外観が無事なのを見たからだ。
生死は不明だけど、中に誰かいるのは間違いない、気がする。
なら僅かな可能性にかけて、素早くウルフを撃退して確認したい。
息さえあれば助けることが出来るかもしれない。
あとはまあ、積み重ねた戦闘経験があったからかな? ライルラスの街で僕ほどゴブリンとウルフと戦った冒険者はいないはずだ。
魔物にも個性があり、個体ごとに動きが微妙に違うけど、それでも何千と戦ってきた僕にはウルフの動きがある程度予測出来る。
とはいえ過信もしないし油断もしない。
魔物との戦いは何が起こるか分からないし、ほんの少しの油断で命を落とした冒険者をここ一年で見てきた。
僕はポイントを使ってアイテムを呼び出した。
【投擲用ナイフ(五本セット) 40P】
僕は両手でそれを一本ずつ握ると、落ち着くために大きく息を吐いた。
「大丈夫、僕なら出来る」
言葉を口にすることで自分に言い聞かせて、成功するイメージを頭に浮かべた。
投擲の練習は何度もしてきたから、いつも通りにやるたけだ。
特に今なら相手がこちらに気付いていないから、動かない的と変わらない。
僕は意を決して物陰から飛び出ると、走りながらナイフを投擲した。
最初の二本は見事にヒットし、次の一本は外した。
……残り九体。
悲鳴が上がったことで警戒態勢に入ったウルフは、僕の存在に気付き威嚇するように吠えてきた。
僕は距離を詰めながら残り二本のナイフを一度ベルトに差すと、次のアイテムを選択した。
【
これは魔法の杖で、魔法を使えない者でも魔法の言葉(キーワード)を言うだけで魔法を使うことが出来る。使い手の魔力が強いと威力も上がる、とある。
僕はまあ、弱いけどウルフ相手なら問題ない。
杖を呼び出したところで一度足を止めると、一体のウルフがこちらに駆けてきた。さらにそれを追うように残りのウルフたちもこちらに向かって来る。
僕はそれを見て安堵した。
一番の懸念は馬車を攻撃していたウルフが動かないことだったけど、その心配はなくなった。
僕は杖を構えると、魔法の言葉を呟いた。
「
すると杖の先から風の刃が放たれて、先頭を走るウルフの体を真っ二つに斬り裂いた。
「風刃!」「風刃!」「風刃!」「風刃!」
さらに四発の風の刃がウルフに放たれたけど、倒せたのは二体だけだった。
……残り六体。
疾風の杖で撃てる魔法の回数は五回だけだけど、この杖にはもう一つの使い方がある。
僕は疾風の杖を一度ギュッと握ると、四体のウルフが集まっている方に放り投げた。
そして四体の中心地に到達した時に、
「
と叫んだ。
すると疾風の杖から風の力が溢れ出して、爆発が起こると風の刃が周囲に広がりウルフを襲った。
無数の風の刃はウルフの身を切り裂き、ウルフたちは小さな悲鳴を上げて倒れた。いや、一体だけ生き残っている。
どうやら近くにいたウルフが盾になって被害を免れたようだ。
……残り三体。
数は減ったけど、ウルフたちはまだ戦意を失っていない。むしろ仲間が殺されたことで、怒っているみたいだ。
その中の一体が威嚇するように吠えると、タイミングを合わせて三体のウルフが飛びかかってきた。
しかしその時には既に僕は手に剣を握っていて、迎え撃つ準備は完了していた。
ここまで減っていれば、僕一人でも余裕で対処出来る。
特に今は仲間が殺されて怒りで我を忘れているのか、動きが読みやすい。
僕はすれ違い様に、剣を一振り、二振り、三振りと振るい全てのウルフを討伐した。
倒したと同時に、ベルトに差したナイフも消えた。
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