第2話 レンタル
「んー、いない?」
森に入って既に四時間が経っていた。
未だ魔物を狩ることが出来ていない。
その間薬草を採ったり、お昼を食べたりして進んでいたけど、気付いたら森の奥の方まできていた。
野営をするための道具や食料はあるから一泊するのは問題ないけど、一人だとしっかり休むのは難しい。外敵への警戒が必要だから。
それと元々日帰りの予定できていたから、メリッサたちにそのことを伝えていない。
冒険者だから突然帰らないこともあるけど、今日からソロで活動するのを知っているからね。
「考えても仕方ない、か……」
一人になるとどうしても独り言が増えてしまうなと思ったその時、唸り声が風の音に混じって聞こえてきた。
瞬間、僕は腰に携えた剣に手を伸ばし、警戒しながら音のする方へと歩を進めた。
聞こえた音の大きさから近くにいないことは分かったけど、その声の調子に気になるものがあった。
あの特徴的な唸り声はウルフが興奮している時に発する音だ。
ということは、何かと戦っている可能性が高い?
しかも聞こえてきたのは複数の声音だった。
引き返すことも考えたけど、僕は確認することを選んだ。
僕が足音を忍ばせて向かった先で見たのは、何かに喰らい付いている五体のウルフと、転倒した馬車に飛び乗り窓を前脚で叩く二体のウルフだった。他にも四体のウルフが馬車を囲んでいる。
たぶんあの馬車は、右手に見える崖の上から転落したんだと思う? 森の中を通って馬車がここまでくるのは不可能だから。
確かあの崖には隣のエキスラ領に向かうための道が通っているけど、利用する人は少ない。
ただ時間をかなり短縮出来るみたいだから、急ぐ人が稀に利用するということを宿に泊まっていた商人から聞いたことがある。
少し疑問形なのは、二百メートル近い崖から転落したのに車輪の残骸らしきものはあるのに車体には目立った破損が見られないからだ。
外装は豪華には見えないし、一見するとただの馬車に見えるけど特別性なのかな? わざと目立たないように作ることだってある。
そこまで考えて、僕は頭を振った。
まずはこのウルフたちをどうにかしないといけない。
執拗に窓を叩いているということは、あの中にはまだ誰かがいるのかもしれない。もちろん馬車が無事とはいえ、あの高さから落下したら中の人はもう駄目かもしれないけど……。
僕は剣から手を離し、心の中で『レンタル』と念じた。
それは僕が十二歳の時、祝福の儀で授かったギフト。これのせいで跡取りを弟に奪われ、家を追放された。
そして他の人よりもレベルが上がるのが遅くなり、鈍足のスローなんて呼ばれるようになった諸悪の根源でもある。
ただ、確かに授かった当初は何でこんなギフトをと恨みもしたけど、時が経つにつれてこのギフトの可能性を知ることが出来た。
だから今の僕にはこのギフトに対する蟠(わだかま)りはない。
頭に浮かぶのは様々なアイテムの名称とその横に表示される数字。それと取得ポイントと表示された数字だ。
【取得ポイント 11298】
この取得ポイントを消費して、リスト内のアイテムを呼び出して使用することが出来る。
またこの取得ポイントは、魔物を倒したり魔石を吸収することで増やすことが出来る。
そう、本来僕に入るべき経験値の半分以上が、この取得ポイントになっているのだ。
使用出来るアイテムの種類は豊富で、武器や防具、ポーションなどの消耗品と多種多様なものを選択出来る。
その中に食料品など存在しないものもある。
特に驚いたことは、それこそ物語で語り継がれるような五英雄の使用していた武器もリストの中にあるし、僕の好きな騎士王ライが王様から授かり使っていたという宝剣リュゲルもあった。
もちろんそれを選択し呼び出すためのポイントは莫大な数が必要になる。
では何でそんなギフトにもかかわらず僕が家から追放されたかというと、ギフトを授かった時は【鉄の剣】しか使えなかったからだ。
このレンタルのギフトは祝福の儀を担当した王都の司祭様でも初めて聞くギフトだったらしく、最初は興味深そうにしていたけど、呼び出せるモノが鉄の剣しかないのと、呼び出していることの出来る時間が五分しかないと知ると興味を失っていた。
それは司祭様だけでなく、祝福の儀を受けにきた子供たちについてきた大人たちも同様だった。なかにはその能力を知って蔑む人や嘲笑う人がいたほどだ。
実際僕もレンタルを授かった当初はハズレを引いたと思った。
けど後にある条件によってリストが更新されるのを知った。
ただ結局そのことを他の人に告げることはなかった。
あの当時は色々なことが重なって、それどころではなかったからだ。
あとはレンタルの取得ポイントの増やし方が分からなかったから、リストが更新されてもアイテムをレンタル——呼び出すことが出来なかったというのもある。
ではレンタルのリストが更新する条件とは何か?
これは二通りある。
一つはアイテムの現物をその目で直接確認することで、もう一つが本などでそのアイテムのことを知ればいい。
リストが更新されると頭の中に鈴の音のような音が響く。
初めて武器屋を訪れた時は連続して鳴り響く音に頭が痛くなって数日寝込んだこともあった。
さらにこの二つの方法には差があって、本などで間接的にそのアイテムのことを知った場合は、アイテムを呼び出すために必要なポイントが多いことが分かっている。
後にそのアイテムを直接見れば、そのポイントも修正されるけどね。
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