第10話 強引にそして大胆に

土日の朝、私は珍しく早起きをした。

時刻は六時、なんでわざわざ土曜の朝に早起きをしたのか、それは『笑顔のパン屋さんに』朝一で向かうためだ。

あの一件以降、家族にアルバイトの事を詳しく話した。

お父さんも私がアルバイトを始めるかもしれないという事に大きな期待を寄せていて一人っ子の私にかかる重圧は大きいものだった。

あれから私は正式に決まったわけでも無いパン屋のアルバイトの事をずっと考えている。

その時間は期待と不安が入り混じっていて、初めて行くテーマパークの入園前のソワソワと似た様なものを感じた。

そんな事を思いながら、土曜日、私はもう一度パン屋に訪れる様にとに笑美さんに言われ身支度をする。

パン屋にはお昼過ぎに一時間だけ休憩として店を閉める時間がある。

その時に私の採用とか、仕事の事とか諸々説明してくれると言っていた。

でも私は我慢できなった、自分の『人生』が『生きてる意味』が見つかるかもしれない、そんなチャンスを感じたあの場所で働くことだけが今の私の唯一の希望だったから。

「とにかく働きたい」その気持ちが抑えられず。朝一でパン屋に向かう。

たんたんと乗り込んだ電車も土曜日だからか空いている。

ここまで自分の望む欲求に従って行動するのは生まれて初めてかもしれない。

珍しく私はイヤホンをつけず、動く電車と、アナウンスの声をまじまじと聞いていた。

駅を降りてパン屋に向かう、太陽の明るい光がだんだんと目に入る。

すれ違う中学生はジャージ姿で掛け足気味で歩いていた。

土曜日なんていつも十時過ぎまで寝ている、これからバイトを始めたらそんな怠惰な休日は無くなるのだろう。

開店前の『笑顔のパン屋』を眺める、そして深呼吸する。

道路を渡りパン屋に向かうその時、店の扉が開き笑美さんが店内から顔を出す。

「おはようございます」

私は反射的に笑美さんに挨拶をする。

当然笑美さんはなぜこの時間に私がいるのか分からず困惑している。

「すいません、早く来過ぎちゃいました」

「えっと・・・」

「やっぱり私ここでどうしても働きたくて。そう思ったら、いてもたってもいられなくて・・」

まっすぐ私は気持ちを伝えた。

笑美さんは私の顔をじっくりとみて一言笑いながらこう言っ

た。

「美心ちゃん、アルバイト合格です!よろしくね!」

「はい!」

強引にそして大胆に私の未来は動き出す。

花澤美心のアルバイトが始まる。









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