第7話 「生きてる意味が欲しいんです」
ごちそうさまでした」
彼女から貰ったクリームパンはものの数秒で私の胃袋の中に消えてしまった。
「今度は店が空いてる時に買いに来てね!」
彼女は私にそう言い残しパン屋の鍵を開ける。
外から中の様子が少しずつ見えてくる。
店内は予想通りそこまで大きな作りでは無く、スペースも狭い。
でもほのかに香るパンの残り香が私の鼻を刺激する。
「あ、あの・・・この店はお一人でやってるんですか?」
「え?」
おそらく閉店してすぐに移動販売に出たのだろう、パンを置いている皿や籠にパンカスが放置されたままで片付けが済んでいない。
「そうね・・・オープンしたのが三月十一日でまだ少ししか経ってないし、本当はアルバイトとか募集したいけど中々手が回らなくて・・それに今は一人でも多くの人にパンを届けたくて」
パン屋の看板に書かれた大きなスマイルが何度もちらつく。
彼女は店の中に入り、パン屋の扉を閉める。
私は何故かその場から動けずにいた、金縛りにあったかのように頭では帰ろうと思っているのに体はずっと正面を向いたまま動けない。
看板の大きなスマイルが私に石化の魔法をかけたのだろうか・・・
無駄に心臓の鼓動が速くなる。
「私はどうしたいの?」「ずっとこんな風に生きていくの?」毎日溜まりに溜まった自分への失望と不安が突然溢れ出す・・・・
周りのみんなは毎日『夢』や『目標』今しかない高校生活を謳歌している。
私は・・・一生何もせず、『生きてる意味』すら曖昧なまま年だけを重ねていくのか・・・・
さっき食べたクリームパンの味と店主である彼女の笑顔がきっと私の心のリミッターを外したんだ。
気づいたら、その場にしゃがみこみ涙を流していた。
眼球から涙が溢れて、溢れて堪らない。
泣いたのなんて何年ぶりだろう・・・
その時再びパン屋のドアが開く、彼女は私の顔を見てひどく驚いた顔をする。
「ちょっと!!え?大丈夫?どうかした?」
彼女は心配して私の腰をさする。
ごめんなさいお店の前で泣いてしまって、笑顔じゃなくて泣き顔を見せてしまって・・
「とりあえず中入ろっか?」
彼女は私の手を引き店の中に誘導する、彼女の手はどこか暖かくて優しさを感じた。
この手からパンが作られる、人を笑顔にする・・・
私もそんな風に生きてみたい・・人生を消化試合のようにただ過ごすのでは無く、自分のやる事に選んだ事に意味を持ちたい、希望が欲しい。
「あの・・・」
「うん・・・?」
「私をここでアルバイトとして雇ってくれませんか?」
きっかけは実はすぐそばにあった、でも「自分には無理」「意味がない」と自分の傲慢さに支配され逃げてきた。
だからこそ自然と口から出た言葉に戸惑いと希望が生まれた。
私は必死に溢れる涙を拭いながら彼女の瞳を見つめ嘆いた。
「生きてる意味が欲しいんです」
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