第5話 好奇心
上履きを履き替え正門を出る。私の高校は少し山の方にあり、行きは上り坂、帰りは軽い下り坂になっている。坂道に隣接された大きなグラウンドに野球部やサッカー部が必死に練習に励む様子が何度も遠くからチラつく。
四月の中旬、一日を通して気温が暖かく、運動するには丁度最適なのかもしれない。時より吹く向かい風が気持ちよく感じる。
同じ下校をする生徒の中には、多分私と同じ帰宅部の一年生の女子生徒が仲良く楽しそうに歩いている。
私も高校に入ればきっと何かやりたいことを見つけて青春を謳歌できると期待していた、でも実際はそんなことなかった、特に何もせず毎日ダラダラ過ごすだけの生活、ドラマやアニメのように何か人生を変えてくれる大きな出会いやきっかけをほのかに待っているのかもしれない。
下り坂を降り、横断歩道を渡り最寄りの駅に向かう。
駅から高校は歩いて十分程の近さ。無駄に数少ない電車にドギマギせず時間に余裕を持てるのが救いだ。
今日はいつもより何故か濃い一日だった、朝から美味しいクロワッサンを食べたと思ったら、放課後に健斗と気まずい会話を繰り広げた。
それだけじゃない、いつも当たり前のように感じていた情景が何故かつまらなく、そして周りの人たちが羨ましく感じた。
交差点の信号が変わるのを待つ間私はインスタグラムで改めて『笑顔のパン屋』の事を調べた、何故か無性に気になってしまう、別にあのレベルのパン屋さんなんて探せば何軒かあるし、私は別にそこまでパンが好きってわけでもないのにずっとモヤモヤしている。
改めてお店の場所を調べると高校の最寄りの駅から3駅先の場所にある、今日はもう閉店している、そんな事はわかっているなのに無性にそのパン屋をこの目で見たいと思う気持ちが強い。
気づいた時には家とは別方向の電車に乗っていた。
自分でも何をしているのかわからなった、ただ一瞬の好奇心に駆られ『笑顔のパン屋』を目指していた。
パン屋がある最寄り駅を降りて周りを見渡す。あたりは特に何かあるわけでもない。このまま乗り継けばそこそこ栄えた大きな駅に行けるがこの駅は人通りも少なければ、近くにお店が立ち並んでいる訳でも無くしんみりとしていた。時間は十七時十五分前くらいで辺りも少しずつ日が沈み出してきている。
地図アプリによればここから歩いて七分ほどの場所にあるらしい。
学校からだと二十分くらいで行けるが、家から考えると四十分近くかかるだろう、頻繁に通うのは難しいのかも知れない。
歩いている途中お腹が鳴った、よくよく考えればいつもは帰宅してる最中で帰ってきたら適当に小腹満たしでお菓子かなんかを貪りだらだらしているためその癖が出てしまったのかも知れない。
パン屋に行くといってもただの私の好奇心で外観が見たいだけ。
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