第4話 『ナンバリング・カップル』

放課後は青春を謳歌するにはぴったりの時間だろう部活やバイト、生徒会、私の周りの友達はそれぞれの時間に没頭し高校生活を楽しむ。

尚も比奈も女子バトミントンとバレー部に所属していて授業後の掃除を適当に片付け、先輩や顧問の不満をこぼしながら部活に向かっていった。

四月になって総体が近づくにつれグランドや体育館には少しずつ緊張した空気が流れていくのを今年も感じるのだろう。

部活動は一年の頃に沢山見学をしたがイマイチピンとこなかった。

中学の頃はバスケ部に入っていたが、顧問が厳しくて辛い思いをした。

そのせいで高校ではバスケ、いやそれ以前に部活をやりたいと思わなかった。

だったらアルバイトでもしたらどうかと親は私に言うけど、お金があっても欲しい物も趣味も特に無い私には使い道が思いつかない。

私の通う高校は特別偏差値が高い進学校ではない、そのため勉強だって向きになってやらなくても、家に返って適当に予習、復習をくり返ぜば上位の成績をキープできる。

 

一年の頃は「毎日だらだらしてー」と母は毎日のように私に不満をぶつけていたが成績だけ良く、一年の三者面談で担任の先生に「今のまま行けば校内でも高い推薦枠が狙えると」自身気に言われ、それ以来私のぶっきらぼうな高校生活に対して口出しをすることがなくなった。

私は担当のクラスの玄関掃除を毎日のようにこなし、ちりとりで集めたゴミをゴミ箱に捨てた。

「あれ花澤??」

私は咄嗟の声に心臓を驚かせ後を振り返る。

健斗だ・・・・2年A組の富永健斗・・・

髪は校則にギリギリ引っかからないくらいの長さの今時のセンター分け。

サッカー部のキーパーをしていて、身長も180近くあり、ガタイがよく細身な私の2倍くらいの肩幅がある。

そんな健斗が手に小ぼうきと塵取りを持っていて少し笑ってしまうくらいだ。

「健斗じゃん・・もしかして玄関掃除なの?」

「あーそうそう。俺のクラス月割りで掃除分担変わるからさ・・」

運動部なだけあって声もハキハキしていて聞き取りやすい、ただそっちから声をかけてきたくせに何でそんな気まずそうな顔をしているのか?

私と目をしっかり合わそうとしない・・

まあ仕方ないか一度告白して振られた相手に。分け隔てなく声をかけれる方がすごい。

プライドマシマシな高校生男子にはそんな大人な対応は難しいと思う・・・

恋なんてしたことが無く比奈と尚を羨ましく思う日々だがそれは私の意思で誰かを好きになって行動したことが無いからであって、『恋』とは全く無関係な高校生活を送ってきたわけでは無い・・・

私の高校の文化祭には『ナンバリング・カップル』という意味わからない伝統がある。

全校生徒、男女別に番号が書かれたリストバンドが支給され、男子は黒色、女子は白色のリストバンドで学園祭の2日間の間で同じ番号が書かれたリストバンドを持つ人を探し、見事リストバンドを交換できたら『ナンバリング・カップル』として表彰されると言う伝統企画だ。

去年の文化祭、私の相手は今目の前にいる健斗だった。

健斗はサッカー部で友達も多く、すぐに番号の相手が私だと見つけ出し見事『ナンバリング・カップル』として表彰されてしまった。

それからよくあるインスタグラムのメッセージ機能で少しずつ連絡を取るようになった、時には電話を誘われることもあった。

そんなある日突然電話越しに告白された・・・

電話越しに確かに健斗から「好きです」という綺麗な言葉を聞いたのは何故か未だに覚えている。

勿論私に恋愛なんてできるわけなく、素直に「ごめんなさい」と断ってしまった。

後々、周りの友達から鬼のように事情を聞かれ「もったいない」「なんで?」と追求される日々をしばらく過ごした。

私がこんな空っぽな性格じゃなければ、今こうして目の前にいる健斗と絵にかいた青春の日々を過ごしていたかもしれない。

「健斗が丁寧に玄関掃除してるのなんか面白いね」

私は何とか絞り出した言葉で会話を返す。

気まずい、一度振ってしまった相手を前になんて言えば良いのかわからない。

健斗の告白を断って以降メッセージのやり取りもなく、学校でも上手く健人とすれ違わないように意識していた。

そんな中、再び健人と話す機会ができてしまった、よりによって掃除の時間に。

「俺だってちゃんと掃除するよー」

少し笑いながら私の絞り出した苦言を上手く受け止めてくれた。

「そうだね・・私帰るね、 部活頑張って!!」

これ以上、会話を繋げるのはしんどい、とりあえずその場を去りたい私は駆け足で塵取りをロッカーにしまい玄関を後にする。


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