第3話 昼食にて
お昼休みの時間、冷凍食品が大半の弁当を少しずつ食べながら一緒に席を囲む比奈と尚の恋バナに耳を貸す。
二人はこの2年D組の中でも特に仲の良い友達。
自分で言うのもなんだが親の言い付け通り友達は多く作ってきた。
中学の頃も勿論、親と先生の意見に従い偏差値もそこそこの県内の高校に入学。
すぐにお手本のような友達作りを行い高校生活を送る準備をした。
周りの友達は恋に部活と今しかない青春を謳歌するように毎日を生きているだろうが私にはそんな夢も情熱も無い。
比奈と尚の恋バナは今日も同じような内容ばかり。気になる男子からの返信が遅い、このバンドの失恋ソングが胸に響くなど・・・きっと話のネタはいくらでもあるんだと思う。
生まれてから『恋』という感情に目覚めたことが無い私はもしかしたら人よりも傲慢で理想の基準が高いのかもしれない、あるいは空っぽな私には『恋』なんて感情はそれこそ必要ないのかもしれない。
二人の話を聞く度「恋愛って面倒くさいな」と下向きに考えてしまう、でも心の奥では恋愛でもいいから何かに熱中できる二人の事を羨ましく思っている自分がいて情けなく思う。
オシャレに目がない比奈と尚は校則に引っかかないギリギリのラインで薄化粧をしている、そんな二人の顔を今日も眺めながらお弁当に入っている大きめの卵焼きを口に運んだその時、二人の恋バナは一瞬で代わり別の話題に移った。
「そう言えば、最近上の方にできた新しいパン屋知ってる?そこのパンがめちゃくちゃ美味しくてさー」
比奈の口から出た「パン屋さん」と言う単語が口の仲の卵焼きを急いで咀嚼させる。
母が朝言っていた「新しくできたパン屋さん」その言葉を思い出す。
「それって移動販売でここら辺に来てるやつだったり・・?」、
「あ、そうそうそれそれ! この前私の家の近くにも来てたの」
比奈の家は私の住んでる街とは別の西の方にある。
しかも比奈の口から出た「移動販売」という単語・・・
「え、何それ初耳!」
甘いものが大好きな尚はすぐその話に喰らいつく。
パン屋なんて今の時代どこにでもあるし、新しくできたからとわざ高校生活を謳歌する比奈の口から話題に上がるなんて相当珍しいことだ。
比奈も言っていた「めちゃくちゃ美味しい」という言葉には文句なしの共感を感じてしまう。
尚の情報リサーチは早い、すぐにそのパン屋をインスタグラムで見つけ出す。
『笑顔のパン屋』とインスタのアカウント名に記載されている。
何とも言えない店名・・・今の時代ならちょっとオシャレな英語の綴りでつけられた名前の所も多い。
実際私の家の近くにあるパン屋さんも『Vermeer』という名前だ。
ただ驚く事にプロフィールに記載されてる住所は私の通う高校からさほど距離がない。
電車に乗ってプラス15分と言った所だ。
さらに『移動販売はじめました』とインスタの投稿には上がっている。
間違いないこの『笑顔のパン屋』があのクロワッサンを・・・
「えー美味しそう!!」
比奈と尚は投稿に載ってるパンの写真をよだれを垂らすように見つめている。
投稿に載ってるパンは確かにどれも写りがよく綺麗にインスタ映えが伺える、パンの中には今朝私が食べたクロワッサンも写っていて、今お弁当の中の白米を見るのが嫌になるくらいパンを食べたくなる。
店の営業時間は18:00今日放課後に少し寄り道して寄って帰ることが出来る。
そう思ったが『4月16日 本日は都合により店は13:00まで』とストーリーに上がっていて渋々諦める結果となった。
まあ別の日によれば良い、もしくは次移動販売に来た時に直接買いに行けば良い。
パン屋の話になったと思ったら比奈と尚はまた別の話題を話し始めた、私も仕方なく二人の会話に上手く相槌やツッコミを入れながら残りのお弁当を食べ進める。
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