劣等生

「アタシに勝てるって面白い冗談を言うのね」


「はははっ、ありがとう。でも、負ける気がしないのは本当だよ」


 突然話に割り込んできたユウマは俺とカイルを見ることなく、シャルルと会話をしている。


 だが、決して和やかな雰囲気ではない。


 ユウマに初めて会ったが、グリーンとは到底思えない不気味さを持っていた。


「そういえばゴーシュ君はどうしたの? いつも一緒にいたのに……」


「あんな負け方をした男を傍に置くわけにはいかないですからね」


「そっか……なんか悪い事しちゃったね」


 ユウマはバツが悪そうに首の後ろに手を伸ばす。


 白色の髪と深紅の瞳、中肉中背の彼に威圧感というものはなく、実力を下に見られるやすいのだなと思ってしまう。


 そんなユウマを警戒してかシャルルの連れ、おそらく従者がシャルルを背中に隠すように前に出る。


 この学校では自分の従者を連れてくることは禁止になっている。


 そのため、同い年の生徒として従者が一緒に入学してくるケースが多い。


 基本、護衛対象であるご令息と同じランクの生徒として入学してくるのだが、シャルルが稀有なブラックということで従者はレッドのようだ。


 おそらく、護衛を任されるということはレッドの中でも上位層なのだろう。


 それは先日敗れたゴーシュという生徒にも言えることで、それに勝ったユウマがグリーンにいることが不思議でならない。


「ユウマ!! 探したんだよ」


「ごめんごめん」


 ユウマに満面の笑みで駆け寄ってきた少女は俺たち、特にシャルルを見ると歪な引き攣った作り笑いを浮かべる。


 その際に、重力を感じさせるダイナミックな揺れにでっか……と思うも、すぐに目をそらし、ユウマの方を見るようにする。


 だが、そこで俺は見てしまった。


「エリサはお昼食べたの?」


「食べてないよ。それよりも――」


 駆け寄ってきた少女、エリサは体をユウマに寄せて耳打ちする。


 だが、ユウマはちらちらとある部位に視線を向けていた。


 本人は上手くできてると思っていても、周りから見ればバレバレというやつだった。


「あれはひどいな」


「ん? 何がだ?」


 ゼストはどうやら気づいていないらしい。


 まあ、こいつはそういうの興味なさそうだもんな。


 普通に飯食ってるし……


 ゼストはユウマが登場したあたりから食事を再開していた。


 自分の身の危険を察知して席を外すなんてことはせずに黙々と食べ進めているのだ。


 年齢的にも興味津々な思春期のはずだが、インターネットが無い分遅いのかもしれない。


 だからといって、この世界の青少年たちが健全かと聞かれたらそうではないだろう。


 現におっぱいをジロジロ見る、欲望に忠実な男がいるわけでありまして……


 シャルルの前に立った従者もそれが原因だろう。


 エリサに負けず劣らずのものをシャルルも持っている。


 おそらく、シャルルに向けられたユウマのいやらしい視線を感じ取り、前に出たのだろう。


 瞬時に察知するなんて、従者ってすげーなー。


 黒髪のウルフカットも似合っているし、背も高いし、前世の世界だったらモテまくってただろうなぁ。


 そんなことを思いながら、食事を再開する。


 冷めたら嫌だからね。


「えっと……すみません」


 エリサから何を言われたのか、ユウマの顔から血の気が引いて真っ白になっている。


 普通ならブラックの生徒に喧嘩を吹っ掛けるだけでも相当な胆力が必要になるはずだが、一体何があったんだ?


「実は課題が終わってなくて……」


 しょーもな。


「ごめんだけど、この辺で――」


「逃げるのですか?」


 その場から去ろうとしたユウマにシャルルは不敵な笑みを浮かべる。


 グリーンに舐められたままでいるのが気にいらなかったようで安い挑発をしている。


「散々馬鹿にしてきたというのに実際に戦うとなると逃げていくのですね」


「じゃあ、決闘する?」


「え……えぇ、しますわ。二度とアタシの前で笑えなくしてやる」


「うん。じゃあ、そっちに手続きは任せるね」


 ユウマのあまりに軽い返答にいつもの調子を崩されたシャルルは「何なのアイツ」と愚痴を言い始める。


 ブラックとして周りに恐れられていた彼女にとってユウマという存在は珍しいのだろう。


 ゆえに自分の言うことを聞かず、首を垂れずにいる存在に無性に腹が立っているのかもしれない。


「行くか?」


「うん、そうしよっか」


 ちょうど昼食を食べ終えた俺たちはトレイを返却口に戻しに行く。


 食堂を出ていく際、従者の人が俺たちに頭を下げているのが印象に残った。

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