一触即発
「なるようにしかならんとは言ったのは俺だけど、こうなるとは思ってなかったよ」
「だろ。何かあった時のために行くべきだったんだ」
「お前の突撃癖が無ければ行ってたかもな」
向かい合わせに座り、昼食をとる俺とゼストは例の決闘について話していた。
その日は俺の提案で公園に筋トレをしに行ったのだが、ゼストは日中ずっと決闘のことを気にしていた。
事あるごとに「今からでも見に行かないか?」と誘ってきたのがその証拠だ。
だが、俺は決して首を縦には振らなかった。
理由としてはグリーンの生徒が負けた際に受ける辱めをゼストが黙っていられるはずがないと判断したからだ。
決闘の勝敗に口を出すことは禁じられており、それに伴って敗者側に課せられたペナルティの妨害行為等もタブー視されている。
そのため、ゼストがグリーンの生徒を庇いでもすれば、闘技場内の生徒たちがタブーを犯したゼストを放っておくはずがない。
そうなれば無事に済んだとしても、上級生たちからも目をつけられるようになり、余計な敵を増やしかねない状況に俺も巻き込まれることとなっただろう。
それに、人がボロ雑巾になるまで殴られている姿を見て喜ぶ趣味は持ち合わせていないからな。
「ゼストに筋トレ教えてもらえて楽しかったよ。ありがとな」
「そうか、それならよかったが……ちゃんと習慣つけてやれよ」
ポリポリとこめかみを掻きながらわかりやすく照れている。
「わかってるって、俺も――」
「どいてくれるかしら?」
背中まで伸びる桜色の髪と蒼く澄んだ瞳を持つ少女が俺たちを見下ろすようにして俺の言葉を遮ってきた。
失礼な態度だとは思ったが、彼女が誰なのかを認識してからは下手な真似はできないと自覚する。
彼女の名前はシャルル・ユリース。
有名な家のご令嬢らしいが、そんなことよりもこの学校ではブラックの一人として名が知れ渡っている。
ランクカーストの起点となったグリーンの生徒に対する過剰な暴力は彼女の仕業だ。
そもそも黒の生徒手帳を入学時に渡される者は歴代の魔法騎士団長の平均的な学園入学時の実力を基に選抜されているらしい。
そのため、他のレッド以下の生徒より遥かに強く、四年生のレッドと五分以上に戦えるとされている。
仮にゼストが挑んでも、負けて言いなりになるだけだろう。
「相席じゃなくてですか?」
俺たちが座っているのは四人席で、声をかけてきた少女は連れを合わせて二人だけ。
座れる席は他にあるので丁寧な言葉遣いを意識して尋ねてみる。
聞き間違いかもしれない、と慎重になって損はないだろう。
「えぇ、あなた方と話すことなど全くないですから」
やっぱり聞き間違えてなどないよな。
鼻につく話し方だが、感情に身を任せてはいけないと心を落ち着かせる。
クッソむかつくけどね。
「じゃあ、空け――」
「どうしてどかなきゃいけないんだ? 空いてる席は他にあるだろ」
俺がおとなしく席を空け渡そうとすると、ゼストが口を開く。
「私がここで食べたいのです」
「でも、俺たちがここで――」
「だから邪魔って言ってるのです」
「あ?」
ゼストの口から苛立ちを含んだ音が漏れる。
明らかに機嫌が悪くなったゼストを始めとして不穏な空気が漂い始める。
それは周りの生徒も勘づいており、こちらを意識的に避けている。
「すみません!! 変わらせていただきます!!」
深々と少女に向けてお辞儀をして食器を乗せたトレイを持つが、ゼストは俺の腕を握り、それを止める。
だが、俺は一刻も早くこの場を去りたかった。
「そういうのって駄目なんじゃないかな?」
俺でも少女でもない声を発した者に視線を向けると、そこにいたのはいま話題の人物だった。
「ここは食堂だよ。みんな仲良く過ごさなくちゃ」
「あら、偉くなりましたね。グリーンの分際で」
「まあ、レッドには余裕で勝てたからね。君にも勝てるんじゃないかな」
現れた少年の名前はユウマ、先日の決闘の勝者だった。
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