大番狂わせ
休日明け、俺が教室に入るとすでにとある話題で持ち切りになっていた。
「あれ本当なの?」
「うん」
「それで? 負けた人はどうなっちゃったの?」
「噂だと、一時間で解放されたって聞いたけど……実際はどうなんだろうね? だって、奴隷でしょ?」
休日、グリーン対レッドの決闘が行われた。
敗者はいつでもどこでも勝者の命令に従わなければならないという奴隷契約付きで。
この学園では、どんな理由があったとしても互いの合意がなければ決闘は行われない。
これには強制的に戦わせて自分の要望を押し付けることが無いようにする意図がある。
そのため、決闘が行われるということは両者に戦う意思があることを指し、今回の場合はグリーンがレッド相手に無謀にも挑戦するという構図が出来上がっていた。
決闘のルールは至ってシンプルで武器や魔道具の持ち込みを禁止とするタイマン。
相手が戦闘不能または自主的な降伏宣告をすることによって決着がつく。
もちろん、相手を殺せば即退学となり、監獄送りになる。
そして、決闘には必ず中立的な決闘立会人のもとで行われる。
今回の騒動となった決闘の立会人はクリス先生が務めた。
クリス先生はグリーンに対して過剰に厳しく、他のランクの生徒がサボっていても何も言わないが、グリーンの生徒にきつく叱咤することが多く、このことからグリーン嫌いで有名だ。
決闘が執り行われた場所は入学式が行われた学園中央の円形闘技場。
やる前から勝敗が決している戯れにも関わらず学園一の収容人数を誇る会場で行われたため、大観衆の中でグリーンの醜態を晒すためにクリス先生が用意したと噂されていた。
だから、集まった客もイエロー以上の者がほとんどだった。
どれだけ無様に負けるのか、勝者が敗者にどんな命令をするのかとワクワクしていた者がほとんどでランクカーストを改めて決定づける最高のショーにレッドやブルーの生徒たちは高揚していただろう。
登場したグリーンの生徒も気づいたはずだ。
ブーイングではなく、「がんばれ~」や「最後まで諦めるなよー」という半笑いの声援や対戦相手のレッドの生徒に掛けられた「手加減しろよー」「短すぎてもつまらねぇからなー」という野次から自分が見せ物にされていることを。
自分が負けることになっていることを。
場に飲まれて空回りしてもちっともおかしくない。
俺だったら魔力操作で頭がいっぱいになって防戦一方になるかもしれない。
どんな心境だったかは本人にしか分からないが、確かなのは多少なれどもプレッシャーがかかっていたこと。
そして、そんな状況でも闘技場にいた全員を黙らせてみせたということだ。
「まさか勝つとはな……」
「どんな卑怯な手を使ったんだ?」
「おい、あんまり下手なことは言わないほうが――」
「静粛に。授業を始めます」
教室の扉を開けて入ってきた先生の顔を見ると、皆が一斉に黙る。
前世でいうところの「月曜一コマ」という非常に嫌な時間に開設された必修の授業を眠い目を擦りながら俺は履修している。
この授業の担当教員はクリス先生。
初回授業の時から壁を感じさせる無表情な強面は今日も健在で、淡々と授業の用意を済ませていく。
こちらに背中を向けながら黒板に字を書く姿はいつも通り、他人を寄せ付けない何かがある。
「やっぱりキレてるのかな?」
「そりゃあ、恥かかせてやろうと思っていた奴が――」
「そこ。私語は慎むように」
クリス先生は俺の方に指をさす。
後ろの席の人への注意だとわかっていても、体がビクッと跳ねる。
そのくらい迫力のある先生なのだが、俺の目から見たクリス先生は不機嫌そうには見えなかった。
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