ランクカースト

「――でありまして、人は遺伝的に魔力の質が決まっており、自身の得意とする魔法を極めることが一人前の魔法使いに至る近道と言われているのです。ゆえに、一年生の君たちは授業を受けていく中で自分の成長方針を明確に立て、その後の四年間を有意義なものにしてほしい。……というわけで、今日の授業はここまで。少し延長してすまない。次の授業に遅れないよう気をつけてくれ」 


 授業の終わりをミゲル先生が告げると、続々と生徒たちが立ち上がり教室から出ていく。


 空色の肩まで伸びる長髪が特徴的なミゲル先生は学園内でも指折りの実力者であり、多属性魔法のスペシャリストらしい。


 教師としての評判も良く、周りの生徒たちは当たりだと喜んでいた。


 そこで授業内容について質問してみたかったのだが、そう思う生徒は多く、ミゲル先生を囲うように生徒たちが質問している。


 そこに混ざってもいいが……待つのが面倒だ。


 荷物を片付け、後ろの扉から教室を出た。


 入学式から一週間が経った今日、俺はまだ着慣れない制服と共に授業を受けていた。


 この学園の授業は必修と選択の二種類があり、生徒自身が履修登録をしなければならない。


 大学と同じ四年制なのだが、進級に必要な単位数が足らないことで留年することはできないため即退学となる。


 それに加えて選択授業についてはランクが高位の者が優先的に選択できるようになっており、必然的に緑ランク――通称グリーンの生徒は半強制的に興味のない授業、あるいは単位獲得が困難と噂される授業を受ける羽目になり、最初のランクが低い者が退学しやすいシステムになっているそうだ。


 この仕組みを不平等だと感じたが、実力至上主義かつ未来ある者を優先することを考えれば、この不平等こそ平等であると解釈できる……のか?


 ちなみに生徒間でランクはブラック、レッド、ブルー、イエロー、グリーンと色呼びされている。


「カイル! 置いてくなよ!!」


 廊下に俺の名前が響くと共にダダダッと足音を立てながら迫ってきた男は俺の背中をバシバシと叩いてくる。


「廊下を走るなよ、ゼスト」

「カイルが置いていくのが悪いんだろ?」


 俺の注意に反省した様子はなく、俺の隣であっけらかんとしている男、ゼストはこの一週間で出来た友人であり、俺の一個上のブルーだ。

 

 魔法騎士団に所属している父親に憧れ、団員になることを目指してこのエーテルダムに来たらしい。


 俺よりも背が高く、体つきもアスリートのように無駄がなく引き締まっている。


 オレンジ色の短髪と爽やかな笑顔が印象的な好青年だ。


「さっきの授業、言ってること分かったか?」


「ん? 適性判断の話か?」


 適性判断とは、自身がどの属性のどのような性質を持った魔法が得意なのかを見極める方法のことを指す。


 その方法は大きく分けると『最大判断』と『同等判断』の2つがあり、そのどちらかを用いることで自身の得意分野を把握することができるのだが……


「あれってちゃんと分かるものなのか?」


「ミゲル先生の話聞いてなかったのか?」 


「聞いてたけど……悪い、話し相手を間違えた」


「喧嘩売ってんのか? 俺は売られた喧嘩は言い値で買うぞ」


 拳を作って俺に見せてきたゼストに苛立ちといったものはなく、軽い冗談のようだ。


 俺が勝てるわけないだろと言ってみると、ゼストはやってみなくちゃわからないと意気揚々と答え、次の授業は五階だからと階段を登っていった。


 こうしてゼストと別れた俺は選択で取った『回復魔法A』の講義の教室へ移動しながら、先程の『適性判断』について思い出す。


(要は火、水、土……と順番に魔法を放っていくわけだろ? 最大火力や同魔力でも自分の中にある得意意識に結果が左右しそうだし、自分の感覚という曖昧な物差しで測るのもどうなんだ? それに、目に――)


「うっわー、またやってる」

「悪趣味だよね〜。見てる分にはいいけど」


 ふと耳に入った声に顔を上げると、人だかりが廊下いっぱいに壁を作るようにできていた。


 それも廊下の突き当りに。


「ふざけた口聞いてんじゃねぇよ!!」


 観衆の声に混ざって一段と大きな怒声が廊下に響く。


(またかよ……まあ、無視するのも後味悪いからな……)


 わざわざ行き止まりに向かう用事は持ち合わせていないが、壁の向こうを見に行ってみる。


 そこでは案の定、今となっては見慣れた光景が広がっていた。


「グリーンのくせに調子乗んなよ!」


 ランク格差による一方的な暴力だ。

 

 学内で重視されているランク制によって生徒は実力のもと分類された。


 強者と弱者がはっきりしたことで無駄な争いを減らす目論みは成功したと言えるだろう。


 なぜなら、争いではなく蹂躙が始まったからだ。


 始まりはブラックのとある生徒がぶつかったグリーンの生徒に八つ当たりした事件。


 実際には見ていないのだが、拘束魔法で手足を動かなくしてから鞭で何度も何度も叩いたらしい。


「やり返したいなら決闘でもする? お前みたいな雑魚じゃ億が一でもアタシに勝てなさそうだけど……ていうか、グリーンのくせに場を弁えろよゴミ虫が!」


 人によってはご褒美とも取れる仕打ちによって深く傷ついたグリーンの生徒は退学したらしい。


 だが、自主退学にまで追い込んだブラックの生徒には何も罰がなかったらしい。


 そのことから、生徒たちの中では低いランクの者に何をやっても許されるという風潮が高まり、今となっては――


「ごめん、なさ……」


「え? なんて言った? 聞こえない、な!!」


 嬉々とした様子でレッドやブルーがグリーンをいじめる事案は増えてきている。

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