モブの裏方物語。後編
俺は、ずっと夏凜が好きだった。もちろん、恋愛的な意味で。
家が徒歩数秒で、腐れ縁で、まるで漫画みたいだと何回思ったか……。
そして、漫画みたいだと思い、自然に結ばれるはず、と思ったのがいけなかった。
アプローチはしていなかった。
中学校になってから、夏凜が太田という人物に恋していることが分かった。
焦って必死に、そばにいられるよう苦労した。
でも、ダメだった。
きっと、小学校の頃の俺の行動次第で未来は変わっていた。
虐めが起きていた時、俺はどうすることもできなかった。
声を掛けようとしても、すぐにバスケ部に逃げて行ってしまった。
そしてついに、天童稲荷という、頭のよさそうな転校生に、夏凜は頼りたい、と言った。
その意味が分からないほど、俺は馬鹿じゃない、と思う。
それはつまり、本気で結ばれに行く気だ。
そして、一緒に行けば、俺も応援することになる。
だけど、夏凜が幸せなら、それで―――。
その時は、そう思ってやまなかった。
でも、今はどうだろう。
醜い心の感情が、膨れ上がっては、涙が溢れる。
天童に先輩が仕組んだ作戦を聞いた時、どす黒いのがどっと沸いてきて。
―――なんであんな奴なんだろう。
―――なんで俺じゃないんだろう。
―――そんな強引な手を使う奴なんて。
―――俺は悪くない、俺は悪くない……。
でも、結局俺の行動が足りなかった。
そのせいで今の結末だ。
「俺さ、最低な奴だ……」
俺が悪い。自業自得って、こういうことだったのか。
後悔しても時間は帰ってこない。
もう恋なんて散々だ。
『森』
その時に聞こえた天童の声は、天童とは思えない穏やかさだった。
声が俺を包んで、涙が一瞬引っ込んだ。
『森の事だから、自業自得だって思ってるんだろうけど、自分の怒りを先輩にこじつけたと思ってるんだろうけど。それ、普通だと思う』
「……」
『なんなら、私なんてそいつらに復讐したいって思ってる』
「―――それはない」
俺が断言すると、一度天童の声が止まった。
そのあと、ふっと笑い声が聞こえた。
『はじめて言われた。ありがとう』
いままでクールなイメージだった天童の「ありがとう」は強烈で、言葉を失うほどだった。
たぶん、俺を励ますために浸かってくれたんだと思う。
ぶっきらぼうだけど、心が詰まった感謝は、めちゃめちゃ嬉しかった。
「サンキュ。だいぶ元気出た」
『そ』
その直後、スマホから、じゃ、と聞こえる。
すると、ポロリンと通話が切られた。
―――で、思う。
コイツについていこうと思った。
正直、夏凜と一緒にいると二人の仲を邪魔するに違いない。
なら、別の奴についてくのも理にかなっていると思う。
あれ、おかしいな。
さっきまで恋なんて散々だ、なんて思ってたのに。
明日、どんな顔して話しかけようか。
俺、惚れっぽいのかもしれないな。
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