モブの裏方物語。中編

「今から言うことを聞いても、そんなこと言える?」

『……は?』

「全部、全部ね。あの二人がくっつくために出来上がったんだよ」

『―――どういうことだよ』


先輩の一途で力業な方法に、気づいた時少し笑ってしまった。

元々相思相愛だったんだろう。

これに気づいていないのは、準と、夏凜だけだろうと稲荷は思った。


「そっちのクラスに中村っているでしょ?」

『ああ。先輩に漫画を取られたって言ってた……』

「その子、バスケ部でしょ」

『―――‼なんで』

「だと思った。グルなんだよ」

『は?』


先ほどから、だんだんと準の声が弱弱しく成っていると稲荷は悟る。

本当のことを言ったら、心が折れてしまうかもしれない。


「……ごめん森。私、人と喋るの苦手でさ。今から言う、めちゃくちゃな事を抱擁して伝えられない。人と関わりが多い太田先輩に聞いて。ほんとごめん」

『……いや』

「え?」

『天童がごめんごめんって、謝るの、よっぽどなんだろうけどさ。そのめちゃくちゃな事を先輩から聞いたら、なおさら俺傷つくよ。ストレートでいいから。天童から聞きたい』

「……分かった。―――もともと、有島さんと先輩は両想いだった。それは知ってるでしょ」

『……ああ』

「で、有島さんは有島さんなりに、太田先輩にアプローチをしていた。それと同じで、太田先輩もじわじわとアプローチ方法を考えてたんだよ」

『その方法って……?』

「有島さんの意識を自分に向けること。変な噂が立ってたでしょ?まずあれは、有島さんがちょうど聞き取れる位置で、太田先輩の漫画が中村って奴にとられて、それで先輩が切れてる演技・・・を見せる」

『―――‼まさか……』

「そう。そのあと中村が大げさに、みんなに、いつか有島さんに届くように、先輩に漫画を取られたとだけ言った」

『それは、夏凜が自分に……太田先輩を思い出すように、考えていた……?』

「中村はバスケ部で、先輩の忠実な部下っぽいから手伝ったんだろうね」


その後しばらく、スマホに音がしなかった。


「……クラスに、ほかにも男子バスケ部はいるでしょ?そいつらが、さらに噂を広めた」

『……なんでだ。そんなの、先輩にとって悪い噂が流れるのに。ましてや、大して効果が得られるかもわからないっていうのに―――』

「時には人を狂わせる。それが恋なんだよ、たぶん」


また、声がしなくなった。

この話を聞いて、果たして準は太田薫のことを貶せるのだろうか。

(いや、違う)

ただ、今の気持ちを先輩にぶつけているだけなのかもしれない。

怒りと、切なさと、悲しみと……。

それらをぶつけられるのが先輩しかいないから……。


『なあ、天童』


稲荷の思考は、一気にシャットアウトされ、準の一言一言を忘れぬように、脳内に焼き付けた。


『俺さ、最低な奴だ……』


語り始めた準は、止まることを知らなかった。

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