後悔のその先は反省。

『なんで?これあたしのアイデアなんだけど?』


雨の日、やはり天候は人の心を左右する。

それはいじめる側にも、いじめられる側にも同じことがいえた。

隣にたたずむ麗しい少女も。

芯の強い、翡翠のような瞳の少女も。

この日ばかりは、一生忘れられないだろう。


『あんたらさ、調子乗りすぎなんだよ』

『結局は、あたしらが上だし‼』


鳥が見えた。

頬に強い衝撃が来たのは、その直後だった。

よろける稲荷を見て、彼女らはまるでゴミを見るような目をしていた。

口こそ笑っているが、それこそが悍ましさの元凶。

こいつらは、反省など辞書にないんだ。と話し合いを始めた自分が馬鹿みたいに思えた日の事だった。



いつも見ている光る画面も、ペンもノートも取る気になれない。

ただ、布団の中で考えていた。

最近は良いが、ふとした瞬間に蘇る日々。

もう関わらないと決めたが、まさか自分が加害者のほうになるなんて。

暴力で人を傷つけるのは簡単だ。しかし、言葉で傷つけたら、さらに大きな憎悪の感情へと成りうる。

(この日々が、物足りない)

そう思ったからこそ、あの依頼を受けた。

だから気が緩んで、傷つけた。


後悔はしてしまうものだが、反省をするかは自分次第なのだ。

ここで反省すれば、きっと次の一歩につなげられる。

でもそう易々と出来っこない。

すぐ後悔の段階へともどってしまう。

反省をしよう。

そう思うほど、分からなくなる。


「…………」


考えていると、どうしてもトラウマしか思い浮かばなくなるから、もう、やめよう。申し訳ないが依頼も、キャンセルだ。

ひっそりと、目を瞑った。



朝は、晴れでもない、雨でもない、ジメジメとした曇りの日だった。

外へ出ると、蒸し暑い―という声が聞こえてきた。

そろそろ本格的に梅雨に入るのかもな。と察する。

今は、5月中旬だ。

親友は手紙にああ書いていたが、実際桜どころかたんぽぽも、種をつくり始めるころだ。彼女はかなり独特なセンスを持っていて、よく天気のことを手紙に書いてくる。

そして一週間に一度ほど来る手紙は不思議なことに、稲荷の机の中に入っている。

違う学校の……ましてや病院通いが……。やめておこう。メガティブになるのは良くない。

校舎に入るとすぐ、右肩に感触がある。


「天童」

「……。森か。何?」


今の稲荷にとって、とても会いたくない存在だった。

依頼人の付添人、という立場の森(準)に、合わせる顔がないからだ。


「ちょっとこっち来い」


込んでいるから、と森は生徒が比較的少ない道の脇で手招きをした。

歩いているだけでも目立つ稲荷が、一番はなさなそうなタイプの森と一緒にいるのだから、人目を引いて当然だろう。

周りはさらに騒々しくなった。

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