第14話 決着

 勇者マーカスの一行は、人間とは思えぬほどに強かった。魔王の攻撃を受けながらも欠かさず反撃し、魔王を弱らせていく。グリフォンたちの側面支援もあった。


 その人外の戦いに、藤田はただ見とれていた。


 けれども、魔王のスタミナは底なしであった。一頭、また一頭と、着実にグリフォンたちの数が減らされていき、勇者たちのダメージを蓄積していった。


 藤田は不謹慎ながら、ゲームにしたら魔王のHPはどれほどなのだろうと、半ば呆れ、また半ば絶望する思いで考えていた。桁数は分からないが、きっと999か9999、あるいは99999、もしかしたら999999かも知れない。


 やがて、カールゲンの魔力もつきた。カールゲンは、藤田のとなりに倒れ込んだ。


「あんたを召喚したときよりも、疲れたよ・・・」


 武闘派の三人は戦いを続けていたが、グリフォンが全て打ち倒されてしまったあとは防戦一方となっていた。


「これは・・・魔王の強さを、あなどっていたなぁ」


 藤田は絶望に満ちて、空を見上げた。異世界でも空は青かった。ちっぽけな雲が一つ、寂しそうに浮かんでいた。


 また、禁断の言葉が頭をよぎる。


 あの絶望的に強い魔王を倒せるとしたら、核しかないのかも知れない。


 藤田は空を見上げたまま苦笑した。どうして、彼がこの異世界に召喚されたのかは分からないままだったが、もしかしたら、この問題を突きつけるための神の意地悪だったのかも知れない。


 やがて、傷を回復させるバヌスとグロリアの祈りの力も尽きた。


 筋骨隆々のバヌスも傷つき、藤田とカールゲンの間に横たわる。


「魔王も、かなり弱っているはずなのだが・・・これでは、こちらが先に白旗じゃあ」


 バヌスはゼイゼイと息をしながら言った。


「大丈夫か!?」


 マーカスが傷ついた三人の前に立つ。グロリアは魔王の気をそらすため、傷つきながらも戦いを続けていた。


 藤田は、仰向あおむきに倒れて青い空を見上げた。「核」が発動すれば、彼も死ぬだろう。念願の内閣総理大臣になったばかりだというのに、日本国民に知られることなく、ひっそりと宇宙のどこにあるかも分からぬ地で死ぬ。墓も建たない。


 それは、有史以来、誰も味わったことのない感情であった。


 グロリアの悲鳴が聞こえた。


 もう終わりだ――――マーカス一人で、あの底なしのスタミナの化け物は倒せない。


 どうなるかは分からないが、いよいよ覚悟を決める時かも知れない。


 つらみじめな思いを心の隅に追いやり、闘志の炎を再び心に宿らせて起き上がろうとしたそのとき――――――彼らの頭上を、何か巨大なものが横切った。


 藤田は目をしばたいた。


 再び、巨大なものが空を横切る。


 続いて、うらめしそうな魔王のうめき声が響き渡った。


 藤田は飛び起き、周囲を見回した。


 今や空には、何百もの銀色の翼を持つドラゴンが飛び交っていた。


 ドラゴンの大軍は魔王の軍勢に飛びかかり、蹂躙じゅうりんしていた。そして、魔王にも、何頭ものドラゴンが襲いかかる。


 マーカスは、剣を落とし、呆然ぼうぜんとつぶやいた。


「何百ものドラゴンが・・・援軍に来た。あんたの、トモダチ?」


 そのあまりに頼もしい光景を目にして、藤田は思わず笑い始めていた。


「ようやく・・・日米安保が発動された?」


 藤田はそうつぶいてから、狂ったように笑い転げた。


「時間が、かかりすぎだろう!」


 猛威もういを振るう銀の翼は、時に凶悪にきばくこともあるが、今日の彼らは頼もしい味方であった。その日、空を埋め尽くした銀の翼に、魔王は倒された。

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