第11話 発動しない日米安保

 邪悪な巨人が投げた巨石がシールドにぶつかり、シールドが激しく揺れた。


 当初は破竹の勢いだった精霊たちの数も激減し、いまや敵軍がシールドのすぐ外まで迫る。


 「トマホーク」を放ち、一度相手を牽制けんせいしたが、魔王軍はひるむようすなく進撃を続けた。


「おい・・・どうするんだ、これ?王国軍を呼んだ方がいいんじゃないか?」


 グロリアが苛立いらだつように言う。彼女たちは百戦錬磨ひゃくせんれんまの強者だが、数万の大軍を蹴散らすことはできない。


 藤田は、眉間にしわをよせて考え込んでいた。


 敵軍の後方から、複数の巨人が、巨石を投げつけてくる。


「・・・レールガンは・・・使えますか?」


 開発中とだけ聞いていた最新兵器の名を、心細そそうにつぶやく。


 数発の鉄球が空中に現われ、降り注ぐいくつかの巨石を凄まじい勢いで貫通する。


「使えたー!」


 藤田は自らも驚きながらそう叫んだが、レールガンによる反撃は十分ではなかった。いくつかの巨石は粉々に砕けたが、残った数個が降り注ぎ、シールドを大きく揺らした。


「ソーリ!」


 グロリアがせかすように言う。


「例によって、いつまでこのシールドが持つか分からないぞ」


「分かってます・・・考えてます」


 藤田は皺のよった眉間に右手をあてて、さらに考え込む。


 『核』という禁断の言葉が彼の頭を過ぎるが、核兵器は日本に存在しない。せめて、核シェアリングの議論をもっと真面目にしておくべきだったかと思う一方、やはりいかに異世界といえど核兵器を持ち出すのは彼の政治家としての信念に反する。何より、仮にこの世界で発動したとして、守るべきアリアネス王国すら破滅させてしまうかも知れないリスクはおかせなかった。


「・・・自主防衛は、なかなか難しいものです」


 藤田は残念そうにそうつぶやくと、心を決めて戦場を見つめた。


「やはり、ここは、手順通りに行きましょう」


「どうする気だ?」


 バヌスが不安そうに聞く。藤田は不敵に笑った。


「最強のトモダチを召喚します」


 そう言うと、藤田はシールドに迫り来る敵の大軍に向かって、声を張り上げた。


「日本国内閣総理大臣として、日米安全保障条約第5条に基づき、米軍の出動を依頼いたします」


 それは、勇ましい振る舞いであり、勇ましい言葉であった。藤田は自信に満ちていた。


 しかし――――――三つ息をしようと、四つ息をしようと、五つ息をしようと、いつまでたっても何も起こらなかった。


「呪文が・・・失敗した?」


 カールゲンは不審ふしんそうにつぶやいた。


 藤田はもうしばらく待つ・・・しかし、何も起きない。


「もしかして、異世界は日米安保の適応外、ということか?あるいは――――――」


 藤田はそう口走ってから、ある重大な事実に気づいた。


 日本の要請により、米軍は自動的に出撃するわけではない。米軍の出撃には、米国議会の承認が必要だ。米国議会がその必要性を認めなければ――――――


 先ほどまでの自信は雲散霧消うんさんむしょうし、藤田は情けない表情で仲間たちを振り返った。


「米軍は・・・来ません」


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