第10話 序盤は好調

 動き始めた敵の大軍を前にして、藤田は、仲間たちからすれば魔法の呪文としか思えない言葉を口ずさんだ。


未曾有みぞうの武力攻撃事態に対して、日本国内閣総理大臣として、自衛隊に防衛出動を要請ようせいいたします。総力をあげて迎え撃ってください」


 その言葉に応じて、火の精霊サラマンダ風の精霊シルフ水の精霊ウンディーネ木の精霊ドリアードらが、空中から、大地から沸き起こり、たちまち一万を越える大軍となって、魔王軍に襲いかかった。


 すでに、力の一部については検証済みであったが、全軍を挙げた反撃がどれほどの規模になるのかは、藤田自身も予想できていなかった。


 その光景は、どんな予想も超えて、あまりにも壮観そうかんであった。


「おお・・・」


 四人の勇者たちも、その驚くべき光景を目にして、思わず感嘆の声を上げた。


 彼らの後ろから、大地をけて、頭上を飛び越えて、無数の軍勢が魔王軍に襲いかかっていく。それは、地を埋め尽くし、空をおおいい尽くすかに思えるほどのものだった。


 藤田も、思わず身震いした。


「この勇壮ゆうそうな光景を・・・日本国民のみなさんにも見ていただきたかった!」


 思わず目に涙を浮かべながら、彼はそうつぶやいた。


 同時に、自衛隊という言霊ことだまが、この世界では自然界の精霊の力として具現化される点は、極めて興味深いと考えていた。


 日本には、八百万やおよろずの神という、形を変えた自然信仰が今なお生き残っている。火の神、水の神、木の神、山の神・・・まさに、その思想の現われのように思えた。


 藤田に召喚された、万を越える精霊たちは、怒濤どとうの勢いで進撃し、魔王の軍勢を蹴散らしていった。


「すごい・・・すごいぞ、ソーリ殿。まさに、太陽の国から来た、最強の男」


 いつもは弱気なバヌスも、興奮して手を叩く。


「すごい・・・な、確かに」


 グロリアも、口をぽかんと開けて、その驚くべき光景を見守った。


 またたく間に魔王軍の第一陣を蹴散けちらした精霊たちは、続く第二陣に攻勢をかけたが・・・


「あれ・・・なんか、はじめはもっと数が多くなかったか?」


 異変に気づいたマーカスが、目をしばたきながらつぶやいた。


 藤田も、そのことに気づいていた。はじめは、優に万を越える精霊たちだったはずだが、今やその数はどう見ても二千から三千・・・魔王軍の十分の一ほどだった。


「もしや・・・継戦能力けいせんのうりょくの問題か?」


 藤田は嫌な予感がして、背筋に冷たいものを感じていた。


 自衛隊の弾丸や装備品の備蓄びちくが乏しいことは、有名な話である。初撃では敵を圧倒したとしても、長期戦に持ちこたえる備えはない。思えば、太平洋戦争においても、優勢だったのははじめの半年だけだ。今も昔も、そして異世界においても、日本の継戦能力の低さというのは、どうやら変わらないようだった。


「ううむ」


 藤田は困り果ててうなった。


 精霊たちの数は減り続け、もう一千も残っているかどうか分からないほどだ。


「ソーリ!」


 マーカスがあわてて藤田の名を呼ぶ。


 藤田は申し訳なさそうに仲間たちを振り返った。


「すいません・・・思ったより、苦戦しそうです」


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