第9話 言葉を刃とする戦い:魔王VS総理大臣
魔王軍と勇者たちは、王都郊外のサラノスの野の
対するのは、五人の勇者たち・・・。
その戦いは、あまりにも絶望的に見えた。
「まずは、外交的解決を試みます」
イージス・システムを
「あいつに・・・話なんか通じるのか?」
マーカスは半信半疑だ。
「分かりません・・・けれども、きっとできるはずです」
藤田は覚悟を決めると、
「魔王よ、日本国内閣総理大臣藤田が、あなたと話をしたい!」
しばらくの沈黙。
マーカスはグロリアを見、グロリアは肩をすくめた。バヌスは頭を抱えて左右に振り、カールゲンは目を細めて事の成り行きを見守っていた。
永遠のようにも感じる長き沈黙を破って、勇者たちの前に明滅する魔王の顔が現われた。
カールゲンは目を見張った。
「イメージの、投影・・・!」
魔王の顔は、とどろく
「我が言葉を
「通じたー!」
マーカスは
魔王の恐ろしい目が、ギロリと勇者を見る。
「勘違いするな、人間の言葉のごとき下等なものに置き換えて、我が意を発しているのだ」
「・・・恐らく、言霊の力。ソーリの呼びかけにしか、魔王は答えない」
カールゲンが言った。
細かいことは分からなかったが、藤田はともかく言葉が通じたことにほっと胸をなでおろしていた。
「私が、藤田です。この国では、ソーリ・フジタと呼ばれています」
藤田が魔王に話しかけた。
「ふむ・・・そなたは、他の無能どもとは少し違うようだな」
魔王が重々しく言った。その声は、人間たちの
「魔王よ、我々は無益な戦いを避けたい。どうか、兵を引いていただけませんか?」
藤田はそう切り出した。
「・・・そなたの言う意味が分からない。我が配下どもは、血に飢えている・・・人間どもの血にな。これは、無益な戦いではない」
「ですが、戦えばあなた方にも甚大な被害が出ます。話合えば、お互いが折り合える解決策も見つかるかも知れません」
「笑止千万だな、ソーリ・フジタとやら」
魔王は冷ややかに言った。
「被害?血に飢えたハイエナどもは、被害など恐れはせぬ。奴らの欲求は、全てに上回る」
「・・・ここは、
藤田は失望したようにつぶやいた。
「不服なら、変えてみせよ、力を持って!」
魔王が力強く言う。藤田は、深くため息をついた。
「私がいたところも、未だに戦争が絶えないろくでもない世界ですが、それでもこの世界よりは進歩している。我々は、『話し合い』を優先する。少なくとも、そう努力はする。この世界でも、そうしてみる価値は、あると思う・・・魔王よ」
藤田はまっすぐに魔王の顔を見つめた。見ているだけで膝ががくがくとなり、腰が抜けそうな恐ろしい顔だが、最大限の勇気を持って対峙する。
「あなたには、それができる力がある。人間とゴブリン、エルフとオーク、ドワーフとトロールなどが手を組み、より安定して豊かな世界を、創造してみませんか?あなたの決断、ひとつだ」
弱々しい64歳の貧相な男とは思えぬ熱を持った言葉は、少なくともマーカスたちの心にはしみ込んでいた。しかし、魔王にはそうでもなかったようだ。
「争いこそが、世界であり、進歩をもたらすものだ。そなたこそ、分かっていないようだ、ソーリ・フジタ」
魔王は淡々と言った。
藤田は、残念そうに肩を落とした。
「そうですか・・・それでは、『
藤田はそう言って、何事か起こらないかしばらく待ったが、何事も起こらなかった。
「まったくもって訳の分からん奴だが、我が言葉を聞く者がいたことは良かった。あとは、せいぜい頑張れ」
そう言うと、空中に浮かぶ魔王の顔の像は消えた。
その向こうに広がる、魔王の大軍が、より一層大きな存在に見えた。
藤田は、仲間たちを振り返った。
「すいません・・・力及ばず。けれども、『話をした』という事実が、後に意味を持つこともあります」
「いや・・・」
マーカスはおずおずとうなずいた。
「魔王と話しをしただけでも、すごいよ・・・ソーリ。そんなこと、今まで誰も考えなかった」
「そうですか」
藤田はそう言って微笑むと、再び敵軍に向き直った。数万の大軍が、いままさに動きだそうとしていた。
「さて・・・日本国の総力が、試されるときが来たようです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます