第28話

 「この辺にしようか。りつちゃんの方は一週間全部聞いてなかった数学も終わったし、千尋もだいぶマシになったんじゃない?」


 「私が教えたからね。次のテストで赤点取ってたら私のほうが落ち込むくらい、詰め込んでやったよ!」


 


 口から呪文(公式)を発するだけの木偶の坊になってしまった千尋が何よりの証拠である。お昼を食べてからさほど時間も経ってないけど、千尋がこれではもう勉強にはなるまい。りつちゃんの方も聞いてなかった分の範囲は終わったし、これできっと埋め合わせとして満足してくれるだろう。 


 


 「この後は解散ですか?」


 「そうだけどそうならないんじゃないかな」




 僕としてはお帰りいただいて問題ないのだけれど、まずりつちゃんは残るだろうし、それを知ればここ先輩も残る可能性が大いにある。そうなればぜひ千尋にも残ってもらいたい。今更ではあるが、周りが女子ばかりであると少し気まずいのだ。




 「今日何の映画を見ますか?」


 「気が早いねりつちゃん、でもこの人数でパソコンで見るのはさすがに無理があるかな」


 「じゃあ、どこかに出かけますか?」


 「えー……」


 


 普通に嫌だ。僕はできれば外に出たくない。今日だってほかの人の家に集まってもよかったけど、僕としろちゃん二人がいるという理由を盾にここに足を運んでもらったのだ。




 「いいじゃねぇか、少しは外に出ろよ。今日一歩も外に出てないだろお前」


 「うるさい、脳筋は呪文を唱えてろ」


 「じゅも……呪文……?」


 


 しかし本当にどうしようか。




 「そういえばお兄さん、ほかの科目はまた来週ですか?それともお昼休みにでも教えてくれますか?」


 「ほかの科目……」


 


 脳が理解を拒んだ。僕は授業を一人ボイコットしてるのは数学だけかと思い込んでいた。だってさすがに全教科聞かないのは不味い、みいたいなリスクヘッジするだろう。




 「ねぇ、りつちゃん。今週の授業中って何してたのー?」


 「皆さんと何を話すかとか、何をしたいかとか考えてました!あと、授業が耳に入らないように聞いているふりをするのだけでも結構気を遣いましたし、暇ではありませんでしたよ!」




 ここ先輩の質問に、元気に答えるりつちゃん。元気なのはいいことだし、仲良くしてくれるのは嬉しいけど、もっと優先してほしいものがある。




 「……りつ、にいさんが困ってるので次からはやめてください」


 「えっ本当ですか?ごめんなさい……」


 「本当に困ってるけど、次からやめてくれるならいいよ」




 今日はもう少し勉強しようか。 


 そう言って僕がりつちゃんと勉強を始めると、自然と千尋とここ先輩も勉強を再開する。千尋、いつの間にかちゃんと復活してる。




 「しろちゃんはどうする?」


 「私も復習がてらにいさんの授業を聞いてみようかと思っています」


 「本当!?小白ちゃんも一緒にお兄さんとあそ……授業受けよう!」


 


 この後ほんの少しだけりつちゃんにお説教した。前髪に隠された瞳は少し涙目になってたけど、口元がニコニコしているからこわかった。


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作者です。

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