第8話

 「ちなみに、甘口だよね?」


 「こだわりはありません」




 よかった、義妹との仲が修復不可能になるのは僕だって望んでいない。この平和に感謝を捧げよう。




 「カレーか、家庭によっていろいろあるけど、具はどんなの入れる?」


 「確かにそう聞きますが、今回はレシピに準じることにしましょう」




 しろちゃんはかしこいなぁ、一番平和な選択肢を取り続けている。僕は甘口しか食べれないけど、具にこだわりはないから異存はない。ルーの箱の裏に書いてある材料をかごに入れていく。ちなみに、かごは最初しろちゃんが持とうとしたけど、さすがに持たせてもらった。説得に少してこずった。




 「お肉の量、ぴったりのものがありません」


 「お肉が多くて困る人はいないよ」


 


 料理初心者あるあるを言うしろちゃんを横目に、表記より50gくらい多めのものをかごに入れる。おにくなんて可愛い呼び方しちゃって、つられてしまったよ。




 「そういうものなのですか」


 「いや、お店とかで出すなら気にしないといけないけど、家庭料理だしね」


 「料理、あまり得意でないと言っていませんでしたか?」


 「父が用意するご飯をひな鳥のように食べているけど、出張することがまれにあって、そういうときは仕方なく自分で作るんだ。得意と言えるほどじゃないでしょ?」




 冗談めかして言うけれど、目線が僕をとらえて離さない。何がしろちゃんの琴線に触れたのだろうか。




 「カレーでも僕は汁物が欲しいんだけど、しろちゃんはどう?」




 話題をそらす。何回目だろうね、僕が話題を変えようとするの。


 


 「私もあると嬉しいです」


 「じゃあ、僕の好みでいいかな」




 どうぞ、としろちゃんが言うものだから、逃げるようにして野菜の並ぶ入口付近へと向かう。さすがに買い物している最中は手を離しているから、後ろからついてくるしろちゃんの目線を感じなくて済む。見ているのかもしれないけど、僕は背中で視線は感じることはできない。


 


 「かぼちゃですか?」


 「うん、好きなんだよね、甘くて」




 やけにこちらを見てくるしろちゃんの目を視界に入れないようにしながら、買い物を済ませた。












 「じゃあ、作ろうか」


 「はい」




 僕たちは二人キッチンに並んで、料理を始める。二人立って料理をするくらいはできる、そこそこ広めのものでよかった。




 「僕は米を洗うから、野菜の皮むきお願いしていい?」




 料理をしたことがないとはいっても、小学校と中学校で調理実習くらいはあっただろうし、そのくらいはできるだろうと思って言う。まぁ、危なっかしくても見てれば問題ないだろうし。




 「はい」


 


 米を洗いながら見てると、ジャガイモを手に取って、もう片方の手を包丁に伸ばす。ピーラーじゃなくていいのかな、結構難しいけど。




 「えい」




 えいって言った?およそ料理で出るセリフじゃないと思う。


 米を洗う手を止めて注視すれば、包丁を逆手に持ってジャガイモに突き刺しているしろちゃんがいた。混乱する。えっどういうこと?




 「そんな目で見ないでください」 


 「ごめん、僕と一緒にやろうか」


 「助かります」




 皮むきはあきらめよう。本気でやってこれなら、ピーラーを持たせても何をしでかすかわからない。自分の皮をむき出しそうとか考えてしまったあたりで、恐ろしくなって想像をやめる。




 「皮も食べようか」


 「食べられるんですか?」


 「皮つきのフライドポテトとかあるでしょ」




 適当に言いくるめて、再度包丁を持とうとする手を制止する。その持ち方火サスとかでしかしないからやめようね。




 「僕が一つ切るから、見て真似してくれる?」




 そういって、ジャガイモを少し大きめに切る。あまり小さいと溶けてなくなっちゃうと聞いたことがある、というか以前ジャガイモを無にしたカレーを食べたことがある。僕は学習するのだ。




 「上手ですね」


 「いやいくら下手でもあんな持ち方しないけどね」


 


 幸いなことに、一度見せたら普通の持ち方で普通に切ってくれた。安心。




 「大きさがバラバラになってしまいました」


 「味は変わんないよ」 




 食感は変わるし、多分このちっちゃいのは無になるけど些細なことだ。


 肉はもうパックのまま入れちゃおう。豚の切り落としだから酷いことにはなるまい。それよりしろちゃんに肉を切らせたら事件が起こる気がしならないから、それに比べればカレーの味なんて無味でも構わない。いやルーを入れる以上そんなことにはならないけど。




 その後、しろちゃんは四苦八苦しながらも人参と玉ねぎを切ってくれる。まじ怖かった。かぼちゃも切ろうとしてたけど、硬いから危ないので止めさせた。




 「かぼちゃは何にするのですか?」


 「牛乳もあったからポタージュにしようかなって」


 「家で作れるものなんですね」


 「一緒に煮るだけだよ、時間はかかるけど、暇だしいいでしょ?」




 二つ並ぶ鍋を見ながら、頷くしろちゃん。これからどうしよう、料理は分担すれば楽だなとか思っていたけど、けがされるくらいなら僕が作ったほうがましだ。




 「また教えてくださいね」


 「包丁を使うのはやめようね」




 本人がやる気だから、僕は条件を付けることにした。鍋を見ながら混ぜるくらいならすぐできるようになるだろうし、思えばそんなに深刻な問題じゃない。それに素直に教えを乞う姿を見せられてしまっては、断ることもできない。


    


 そのあとは鍋の前で二人、あまり話すこともなく、ゆっくりとした時間を過ごした。久しぶりに料理なんてしたし、しろちゃんは予想の5倍危なっかしいし、疲れたな。

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