第3話 春 その3
お湯の残りを水で割って身支度を整えるのに使う。洗面所の鏡の前まで運び、花の香りがする石鹸で丁寧に顔を洗い、歯を磨く。歯磨き粉が少ないから今日買って来ないと、とどんな香にしようか磨きながらぼんやり考える。腰まである髪の毛にくしを通す。はちみつ色の髪の毛は少し癖があり量があるため扱いにくいこともあるけど、やわらかで艶があるところは気に入っている。左右にみつあみをすると、毛先に飾りをつける。今日は青い房と金のコイン風の飾りが付いたものにする。秋口に買って以来気に入ってよくつけているものだ。頭を軽く振ると腰のあたりでシャラシャラと音がした。最終確認のために鏡を見る。大きくも小さくもないやや灰がかった青い目、うすくそばかすのちった頬。お湯で洗った直後のため、少し赤い。なんとなく口角の上がった唇。ふと唇にひび割れがあるのを発見した。果物の香りがする保湿軟膏を唇に塗り、顔全体に日焼け止め効果のある保湿液を塗った。
「よし」
鏡に向かって笑んだ。外で仕事をすることが多いので、色白のリューネは日焼け止めがかかせない。もともとそばかすはあったが、最近多くなってきた気がする、でも気にしないことにする。健康であればよいのだ。リューネは手をふくと着替えに向かった。
寝室に向かいながら自室以外に並んだ3つの扉を見た。
父は素材収集の旅。母は研究と開発のために工業都市にいる。姉は嫁いだため、弟は進学したため、とそれぞれの理由で王都にいる。換気しておかないとな、と思いつつも今日はいいか、と通り過ぎる。明日以降で晴れた日にしようと心に決めた。
寝室のクローゼットを開けてざっとワードローブを確認する。
「今日は何を着ようかな」
完全な春ではないけれど、久々に町へ行くのだ、ここより高度が低いから少し春を感じられる服が良い。かつ、帰りは荷物が多くなる。汗をかいても洗いやすい服を選ばなくては。リューネは見栄えと実用性を考えながら服を選んでいく。今日は、歩きやすく寒さに強い厚手の生成り色のパンツ。春の花が襟や袖、裾に刺繍されたスタンドカラーの青いワンピース。膝のあたりまで長さがあり、左右に太ももあたりから大きくスリットが入っている。男女問わずここら辺の人達によく着られている形だ。帯は白地に黄色と緑色で花と蔦の刺繍がされた帯を選び、柄が見えるように体に巻きつける。余った帯は後ろでリボン結びにした。
「上には何を合わせよう」
白いフード付きの皮のポンチョと淡いキャメル色の毛糸でみっちり編まれた暖かいポンチョを手に取りしばし悩んだ後キャメルのポンチョを選んだ。着ると長めの上着の裾から刺繍が散った青がのぞく。靴は歩きやすいこげ茶のレースアップブーツを履くことにした。
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