第2話 春 その2
一階は明かり取の窓が少なく少し薄暗い。魔法具のランタンを灯し、食事の支度にとりかかる。2つあるかまどに火を入れ、昨日のスープを温め、もう1つで鍋に湯を沸かす。同時にパンをあぶった。かまどに火を入れるとせまいダイニングが少しずつ温まってくる。
今日は消耗品の補充と商品の需要調査のために町へ行こう。
今日の予定を考えながら、外履き用のブーツに履き替え、外に出て改めて天気を確認する。
リューネの家は一番近い町まで徒歩で3時間。山の上、森の入り口にある。行きは下りで楽だが帰りはだらだらとした登りが続き、倍近く時間がかかる上体力からみても非常につらい。基本的には節約家のリューネだが、帰りだけは家近くにある集落まで、定期運行の馬車に乗車している。
南西にある町の方向を見ると、町に囲まれた湖が澄んだ青にきらめいていた。今日は湖の妖精の機嫌が良いようだ。よい魚も揚がっているかもしれない。ランチは魚定食にしようと決めると、リューネはキッチンに戻った。
昨日の残りのスープを椀によそう。氷室で保管してあったほうれん草と冬の常備食ベーコンの燻製、それとじゃがいもを、庭で栽培して保存していた乾燥ハーブと共に煮込んだものだ。一晩置いておいたスープは昨日よりもベーコンの旨味が効いている。追加でハーブをのせると薫りが立ち上り、漂ってくるに匂いにリューネは満足した。パンは固めが好みなので、気持ちすこし焦げたくらいで回収する。今日はバターはいらない。
「いただきます」
一人暮らしになってからしばらくたつが、ご飯を食べる前の挨拶は忘れない。パンはまず一口分ちぎってそのまま口に放り込む。アツアツでふんわりと湯気が経つパンから、小麦の甘味と塩気を感じ、噛むほどにじんわりと味をかみしめる。次以降はスープに浸してから食べる。少し焦げたパンの香ばしさとスープが絡み合って胃の中に落ちていく。胃がくつろいで、体が覚醒していくのを食べながら感じる。一人分を平らげると、沸かしてあったお湯で飲み物を作る。食器棚から飲み物かごを取り出すと、ハーブのお茶や紅茶、最近この国にも流通するようになった緑茶をより分けてコーヒーを取り出した。すでに挽いてあるので、お湯で濾す。今日の朝食にはコーヒーが合うと思った。口の中のスープの塩気やパンの甘味が香ばしいコーヒーで押し流されていく。コーヒーを味わいながら、少しの間消化を待つように何を見るともなしにキッチンを眺めた。以前は自分を含め家族5人がひしめき合っていたテーブルだが、今は一人。不思議と寂しくはない。日がまた高度をあげ、明かり取りの窓が少ないキッチンにも日が入ってきた。
「ごちそうさまでした」
リューネは満足して食器を水の張った盥に入れる。今日も良い日になるだろう。
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