リューネ
眼鏡 レンズ
第1話 春 その1
静かな夜だった。
冷ややかな水気を含んだ空気は、森に住む植物や生き物をやわらかく包み込み、穏やかな眠りを守っている。
日がでるまでは闇夜の女神の時間。星屑が広がるマントの内にいる間、夜に生きる者には幸運を、夜を休むものには安息をもたらす。
山の端から日輪の神の気配があり、夜の女神のマントが翻される頃。日の中で生きる者たちが起きだす。
まだその裾に縋って居たいと思いながらも、新しい朝日を浴び、伸びをする頃には日輪の神に感謝をする。
日輪の神は日の中で生きる者たちの守り神。日に生きる者には活力を、日を休むものに静謐を与える。
この世界は広く、大小様々の大陸や島、海から成っている。
日輪が照らす間、闇夜は西に居場所を移し安息をもたらしてこの星を廻るそうだ。その後を日輪の神が追いかけて新たな活力を与えていく。
とある森の入り口にある一軒家も例外ではなかった。
日輪は眩い閃光を迸らせながら山の端から出、森に溶け込むように建っている一軒家を照らした。
家の窓につく頃には光の速度はゆるみ、寝台で寝ているリューネの顔をあたたかくなでた。
リューネは突如顔に落ちた光で少し眉をしかめ、覚醒にゆるく抗い寝返りをうった。白い掛布団が動きと一緒にもぞもぞと動く。
ふと動きがとまり、元来寝起きが悪くない彼女は、ゆっくりと目を開けた。体を起こし寝台の上で軽く伸びをすると、先月買ったばかりのお気に入りのふかふかの白いスリッパを履いて、寝室にある一番大きな窓を開けた。刺繍のある生成りのカーテンを揺らして、冷たく清浄な風が顔を撫でる。そのまま風は寝室の気だるい空気を新鮮な空気に入れ替えて、溶けていった。
窓から少し乗り出し風景を見る。まだ息は白い。目の前には家から南に延びる一本の道。道の両側には草むらが一面に広がっている。あとひと月もすれば本格的な春になる。今は少し寂しい枯れ葉色だが、つややかで香しい緑の絨毯に変わるだろう。家の北側にある森が南からの風を受けてざわざわと音を立てた。吸い込む空気にしっとりとした樹木のにおいが混じる。東側に目を向けると、雪をかぶった山の端から太陽が高度を上げていた。心なしか少し前より、日の出所が東に寄っている気がする。少しずつ変わっていく季節の移ろいを感じながら深呼吸すると、肺の中の空気も清らかな空気で満たされた気がした。ふと寒さを覚え、寝台から出たままのワンピース姿のままであることに気が付いた。椅子に掛けてあったガウンを羽織ると、彼女は一階に下りて行った。
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