第3話 彼女は超能力者

 あの後、太陽は直ぐに部活に向かって行った。

 基本的に真っ直ぐ帰宅する僕にとって、四時過ぎに校舎を歩く事は多くない。教室を出て、下足室へ続く階段を降りる。ただそれだけの道のりでも、周りには様々な物語があった。

 トランペットの重低音。金属バットが硬式球を跳ね返した甲高い音。音を発した生徒一人一人に歩んできた人生があり、それぞれが抱える想いがある。今更部活に青春を掛けるつもりは無いけれど、深月や太陽のように、自分の好きな物に精一杯打ち込める人を見ると、心にズシリと何かが圧し掛かる。

「今日は流星群、か……」

 深月の言葉を思い出し、小さい頃に買って貰った望遠鏡の事を思い出していたら、下足室に着いていた。『遠前』と名札の付いた下駄箱の前に立ち、その戸を開けた。すると、入学時から愛用している黒のスニーカーの前を、小さな紙切れが横切った。下駄箱を飛び出し床に落ちた紙片を取り上げると、何やらメモ用紙の切れ端だと分かる。急いで千切ったらしく、端は歪だった。

 何も書いていない面を返すと、そこにはこう書かれていた。

『遠前くんへ これ見たらすぐ、浅木山のふもとまで来て』

 それは、僕宛ての呼び出し。やはり急いで用意したらしく、殴り書きだ。それでもちゃんと読み取れる辺り、素で字を書いたら綺麗なのだろう。

 浅木山(あさぎやま)。聞き馴染みはないけれど、知らない名前ではない。

「確か、学校(ここ)から自転車で十分ぐらいの所にある山だったはず……」

 まだ天文部の先輩たちがいた頃、一度天体観測に登った事があった。標高四百メートル足らずの低い山で、熊や猪なんかもいないので、ハイキングや運動には良いところだろう。とはいえ山は山なので、コースを外れれば道がいきなり途絶えていたりと、危険な場所もあるらしい。

 少なくとも、学生が放課後に近寄るような所ではない。どうしてこの人が、こんな場所に僕を呼び出したのか。考えられるのは、『他の人に見られたくない』という一点だけ。

 これの差出人はすぐに分かった。

「真弓さんだ」

呼び出された理由もまた分かる。

 となれば、僕にこれを無視する理由はない。幸い僕は自転車通学なので、すぐに行ける。

 早足で駐輪場に向かい、自転車に乗って正門を出た。

 道は難しくないどころか、正門を出ればすぐ遠目に山が見える。緑心寺高校はかなり郊外に位置するため、高いビルやマンションが少ない。山を目指して道なりに行けば、迷う事は無いだろう。

 正門前のイチョウ並木を抜けて、国道に出る。このまま真っ直ぐ行くと、地元出身の子が『何もない』と自虐する駅の方に行ける。今はそちらではなく、交番を目印に左へ。その方が近道だ。

 この時、電車通学らしき男子二人の話が耳に入った。

「さっきさ、真弓が左行くの見たんだけど――」

「そうなの? 家あっちなのかな?」

「有る得るな。真弓は中学もこの近くらしいし」

 真弓さんの目撃情報だ。彼らが指し示す方向は、僕の行き先と同じ。有難い。

 心の中で男子たちに感謝しつつ、左に進んでいく。

 その後も数回曲がって、自転車を漕ぐこと十分。目的地の浅木山、その麓に着いた。目の前には木々が鬱蒼と茂っている。しかし、名前の通り、あまり高い樹木は見当たらない。

 適当な所に自転車を停めようと、辺りを見渡した。すると、桃色のボディにシールでデコレーションされた自転車が眼に入った。今朝の記憶にもあるそれは、確かに真弓さんの自転車だ。そこから少し離れた場所に自転車を停めると、草の陰から、人が現れた。

「よっす。ちゃんと来てくれたんだね、遠前クン」

 そこにいたのは、やはり真弓一果さんだった。

 こうして話をするのは初めてだけれど、こうして真正面から見ると、彼女の容姿が如何に優れているのか、良く分かった。

 パッチリと開いた黒色の瞳は、夜空を思わせる鮮やかさ。重力に逆らうように結い上げられた濃藍の髪。身長は――残念ながら――男子の中では小さい僕と同じぐらい。大体、百六十二・三といったところ。冬服のブレザーでもはっきり確認出来る、胸の膨らみ。そして、短めのスカートから伸びる、スラリとした細い脚。総じて、ファッション誌モデル顔負けの美しさで、思わず見惚れてしまいそうになる。

 しかし、今はそんな場合ではない。そう己に言い聞かせ、気楽そうに構える彼女と言葉を交わす。

「話すのは初めてだね、真弓さん。ここにいるって事は――やっぱり、あの紙は君が?」

「そうだよ。ショージキ急いで書いたから、チョー字汚かったと思うけど。ちゃんと読めたなら良かったよ」

 アハハ、と手を頭の後ろで組む真弓さん。だが、そこには先程友達と話していた時のような明るさはない。

「君は僕の事知らなかったと思ってたけど……誰かから聞いたの?」

「知らなかったワケじゃないよ? だって遠前クンは三組で、アタシは四組だし、体育の時間で顔ぐらいは見てるっしょ? まあ、流石に名前は知らなかったから、ヒナ――朝倉ヒナちゃんって娘から聞いたの。チョー勉強出来るって言ってた」

 真弓さんは相変わらず、軽いノリを崩さない。

やっぱり、彼女はあの時、朝倉さんから僕のことを聞いていたらしい。

 これでとりあえず、前置きは良いだろう。早く話した方が、彼女も楽な筈だ。

「それで、僕をここに呼び出したのは? 今朝顔を合わせた時のこと……だよね?」

 僕の質問に、彼女の笑顔が引きつった。真弓さんは頭から手を下ろすと、表情を困り笑いに切り替える。

「アハハ……やっぱり、見てたよね」

「正直、夢だって言われたらそれ以上何も言えないけどね。それぐらい……常識外れの光景だったし」

「常識外れ、か。ま、そう思うよね」

 沈黙が降りる。辺りに響くのは、風に撫でられた草木の音だけ。僕は、彼女の言葉を待った。そうして暫く経ってから――彼女はようやく、ゆっくり口を開いた。

「……一応聞くけどさ、誰かに喋った? 今朝のこと」

「喋ってないよ」

「……何で? ああいう珍しいの見たら、誰かに話したくならない? あんまり言いたくないけど、ホラ、アタシ割と知られてるから……」

「あれが本当だって証拠が無くて、証明出来ないからね。それで話しても『夢でも見たのか』で終わりだよ。それに何より――」

 確かに太陽や深月という、軽い気持ちで話せる友達はいる。だけど、彼らにも話してはいけない気がした。だって――

「逃げ出すくらい見られたくない事を言い触らすなんて、そういう悪趣味な人じゃないつもりだからね」

 そりゃあ万引きとかしてたなら、先生に言ったりとかはしたかもしれない。でも犯罪をしていた訳でもないし、もし彼女に『物体を浮かす』とかそんな力があるなら、バレたら騒ぎになるなんてレベルじゃない。人の事を誰かに話すなら、それによって起きる事の影響に、話した人は責任が無い、なんて事は有り得ないんだ。

 真弓さんは目を二・三回パチパチ瞬かせると、安心したように目を細めて笑った。

「やっぱ賢いね、遠前クン。それに、優しいんだ」

「言葉や話題に気を付けてるだけだよ。自分で責任を持てない言葉は、言いたくないから」

「そっか。加えてすっごくマジメ、と」

 真弓さんはうんうん頷くと、一度大きく深呼吸をした。そして、僕に背中を向け、山道へ続く森に足を向ける。

「遠前クン。今からちょっと登るけど、まだ元気ある?」

「えっ? ちょ、頂上に行くのは辛いけど、そうじゃないなら、まだ……」

「そんな高くないから安心して」

「ちょっと待って、真弓さん。何処に行こうとしてるの?」

 僕の疑問に真弓さんは、振り返って人差し指を口に当てた。

「アタシしか知らない秘密の場所。そこで、キミが知りたいコト教えたげる」





 それから、僕は浅木山を登っていく真弓さんについて行った。彼女は山道に従っているとはいえ、ローファーで何の躊躇いもなく登っていく。その足取りから、彼女がここに来た事は一度や二度ではないことがよく分かった。僕はと言うと、靴自体は運動に適したスニーカーにも関わらず、登っていくにつれ少しずつ疲れを感じていた。天文部で登った時も、僕と深月は山頂に着いた時には倒れこんだのを思い出した。

「よしっ、着いたよ。ここ」

 真弓さんは一度立ち止まると、あろうことか山道を外れ、道の途絶えた方向に指を差した。

「えっ? でもあっちは、道が無いように見えるんだけど……」

「大丈夫大丈夫。『アタシには』大丈夫」

 真弓さんは、相変わらずの軽いノリで、僕に手を差し伸べた。

「手、繋ごっか」

「……えっ?」

 いきなり何を言い出すのか。軽いノリにそぐわぬ提案に、思わず素っ頓狂な声と共に後ずさった。

「え? 何その反応。どしたの?」

「いや、いきなりそんな手ぇ繋ごうなんて言われたら、そりゃあ誰だってビックリするよ……」

「いやいや、そうは言ってもさ。秘密の場所行くには、そうしなきゃいけないんだって。普通に落ちたら遠前クン、怪我するよ?」

「お、落ちるの?」

「そ。だから言ったっしょ? アタシにしか行けないって。ついでに遠前クンにアタシのこと教えられるし……」

 真弓さんは眉を八の字に曲げて、手を伸ばしながら僕に歩み寄る。

「もう、別に指絡めるとかじゃないんだし、恥ずかしがらなくていいじゃん。いいからホラ、アタシを信じて!」

 しびれを切らしたか、彼女はもう片方の手で僕を掴み、強引に手を握らせた。

「うわっ、ちょっと――」

「離しちゃダメだからね? それじゃあ――よっと!!」

「う、うわぁぁぁ!!」

 真弓さんに連れられて、僕は彼女と共に崖下へとダイブした。下を見ると、案外近くに地面があった。そこには緑の絨毯が敷き詰められている。確かに素で落ちてもクッションにはなりそうだが、それでも多分、ビル五階分は下らない高さ。頭から落ちない限り死にはしないだろうけど、骨折は覚悟するべきだろう。そんな高さから落下しているというのに、真弓さんは至って冷静だ。

「……よし、今! っと!」

「……えっ?」

 地面がもう目の前、と言ったところで、真弓さんが掛け声を出す。それと同時に、全身を叩く風が急速に弱まった。それだけじゃない。徐々に身体が軽く、水の中のような浮遊感を覚える。しかし、それもほんの数秒の間だけ。高さ数十センチ程度の位置から、僕らは地面に降り立った。

「これって……」

 視線を上、僕らがさっき落ちて来た場所に向ける。あれだけの高さから落ちたのに、僕らは擦り傷一つ負っていない。地面にぶつかる手前で、身体が宙に浮かぶような心地に包まれたかと思えば、地面から少し上の座標で、僕らは停止していた。

 これはつまり、今朝見たアレと同じ。

「今……『無重力』になってた……よね?」

 僕の問い掛けに真弓さんはニッコリと笑い、そして――再び僕と自身を宙に浮かせた。

「うわっ……!」

「そっ。見ての通り、今アタシの周りは、無重力になってる。これが……アタシの持つ、いわゆる『超能力』」

 何の抵抗もなく、プカプカと浮かぶ身体の制御に苦心し、僕はゆっくりと真弓さんの周りを回転する。そんな中、彼女は何事も無いかのように話をする。何とか聞き逃さないよう、頑張って耳に意識を集中させた。

「物心着いた頃から、アタシは――『周りの重力を操る』ことが出来たんだよね」

 「おかしいでしょ?」と言いたげな笑みを浮かべた真弓さん。ようやく、多少安定して彼女に顔を向けられた。身体は上下反転しているけど。

「重力を操る……超能力……」

 余りにも、荒唐無稽な話だ。ただ彼女の言葉だけが証拠だったら、僕は絶対に信じなかっただろう。けど、今朝の彼女に、崖からの落下。そして今、自分が地面に頭を下にして浮いているという状況。それらが全て、超能力という非現実的な存在が、現実に存在することを示している。

「つまりさ……これが、遠前クンが知りたがってたコト。アタシには超能力があって、普段は誰もいない所でしか使わないんだけど……今朝ちょっとサイダー落としそうになって、誰もいないと思って咄嗟に使ったら……遠前クンにバッチリ見られてた。それでまあ、今に至る……みたいな」

「……そっか。真弓さん、一度降ろしてくれる?」

 知りたかった全てを知った僕は、彼女と共に再び大地を踏む。僕はただ、黙って自分の両手を見た。

 翼も羽もない、道具を使う為に進化した五本の指。そんな身でありながら、僕は確かに地面から足を離していた。

 無重力の中、宙に浮かぶ。そんなの、宇宙にでも行かなければまず出来ない体験だ。

 そうして脳内に、楽し気な男性の声が流れる。

『宇宙はな、無重力って言ってな。まるで水の中にいるみたいに、ずっとフワフワ浮いてるんだ。あの感覚を味わえるだけでも、宇宙に行って良かったって思うよ』

「……い……」

「遠前……クン?」

 思わず漏れた呟きに、真弓さんが反応する。彼女の声は、何処か心細そうだ。

気付けば、どれだけ自分の世界に入っていただろう。でもそうじゃないと、今自分の中にある感情の正体が、掴めない気がした。

 草木の音だけが耳に入る中、僕は自分の胸の奥から、何かが込み上げてくるのを感じた。それは、ずっと昔に閉じ込めた筈のモノ。いよいよ抑えきれず、それを僕は心のままに、素直に吐き出した。

「……凄いよ、真弓さん!!」

 ガッツポーズのように両手を握り込んでから、僕は彼女に向かって、叫ぶように言った。

「……へ? スゴイ?」

 困惑する真弓さんに、僕は今の体験が如何に素晴らしいものだったか、心のままに語った。

「そうだよ、本当に凄い! だってそもそも、僕らは普通に生きていたら、地球の重力圏内から脱出出来ないから、無重力なんて状態そのものが有り得ないんだよ。無重力を体験出来るとしたら、ジェットコースターやフリーフォールの落ちる瞬間ぐらいで、アレもほんの一瞬に過ぎない。だから、フワっと浮く程度の感覚はあっても、フワフワ浮遊し続けるのとは全然違う!  その継続した無重力状態を体験出来るとなると、もう宇宙飛行士ぐらいのものなんだけど、それこそ日本には二桁もいない。要するに、僕は今、世界中でも数少ない人しか味わっていない無重力状態というものを、学生の身で味わえたんだ! こんな幸運、宝くじの一等よりずっと素晴らしい!!」

 一度堰を切った感情は、言葉となって次々と溢れ出した。ずっと憧れだった宇宙、その大きな特徴の一つを、地上でありながら体感した。その感動が、僕の心を満たしていた。

「えっ……えっと……」

 しかし、僕の感動がピンと来ないのか、はたまたテンションに引いているのか。真弓さんはその場で固まり、ただ瞬きを繰り返していた。

「あっ……ごめん、ちょっと興奮しちゃって。つまりだね、その……僕が言いたかったのは……」

 彼女のおかげで一旦冷静になった僕は、少し呼吸を整えてから、最も伝えたかった二つを口にした。

「君の超能力は、少なくとも僕には最高に素晴らしい物だって事。そして……出来れば、もっとこれについて知りたいって事さ」

 再び草原に、風が吹き抜ける。僕の後ろから吹いたそれは、二人の髪や服を揺らしながら、空に消えていった。風が消えると、固まっていた真弓さんの表情は――

「……フフッ」

 朝倉さんと話していた時と同じ、楽し気な明るい笑顔に変わっていた。

「そっか、遠前クンにとって、アタシのコレは、そんなに良いものなんだ。そう言われると、何か……」

「何か……?」

「ううん、何でもない。でも知りたいってさ、具体的にはどんな感じ?」

「それは例えば、どういう理屈で無重力になるか、とか。後は範囲とか、色々と……」

「な~るほど。そういえばアタシ、その辺ちゃんと気にした事なかったなぁ」

 真弓さんは、人差し指で下唇を突いた。考える時の癖なのかもしれないが、突然やられるとドキッとする。

「あっ、勿論誰かにこの事を話すとかは絶対にしないよ。あくまで僕が勝手に興味を持っただけだから……」

「ちゃんと分かってるって。その辺はさっき聞いたから」

 真弓さんは一度クルリと回った後、手を後ろに組んで笑った。

「いいよ。アタシのこと秘密にしてくれるお礼に、遠前クンが調べたいこと、何でも協力したげる」

「本当に!? ありがとう、真弓さん!」

 正直断られるかもしれないと思っていたけど、存外に快諾された。心からの感謝を述べると、真弓さんは顔の前で手を振る。

「も~お礼なんていいよ。むしろ言いたいのはアタシの方だし。……フフッ、でもさ、遠前クン」

「どうしたの?」

 真弓さんが前かがみになって、僕に少し近付いてきた。彼女に距離を詰められて、思わず心臓が跳ねる。彼女に想いを寄せる男子の気持ちを少しだけ理解すると、彼女はこんなことを言った。

「笑わないって聞いてたけど――そんな風に、スッゴイ楽しそうに笑うんだね」

「……えっ?」

 少し悪戯っぽく、真弓さんは頬を指差した。人によっては嫌味に聞こえるかもしれないその言葉に、僕もまた自分の顔に手を当てた。

「今、僕が……笑ってたように、見えた?」

「いやめっちゃ笑ってたよ? アタシまでニヤけちゃうぐらい!」

 僕は今、笑っていた。

 僕も感情のある人間なので、楽しかったり嬉しければ笑いはする。だが、それが表に出にくいのだ。深月や太陽は付き合いが長いので、少しの口元や眉の動きで判別してくれるのだが、それ以外の人からは笑わないヤツ、と思われている(真弓さんも、恐らく朝倉さんから『笑わない人』とか聞いたのだろう)。その僕が、会話さえ初めての真弓さんにもはっきりわかるくらい、笑っていた。

「……そう、か」

 そうだ。僕は、『ちゃんと笑える』んだ。何年振りかに思い出した当たり前の事実。だけどもう、随分忘れていた。

「……ハハッ」

 そうしてまた笑みが漏れた。自分でも、口角がしっかり上がっているのが分かる。何だか力が抜けて、緑の上に腰を下ろしていた。重力に引かれるままに下ろしたせいで、少し尻が痛んだ。

「ちょ、遠前クン? 流石にちょっと笑いすぎじゃね?」

「ご、ごめん。というか、真弓さんも笑ってるような……」

「そ、それは遠前クンがめっちゃ笑うからじゃん! そんな笑われたら……フフッ、つられない方がおかしいって!」

 真弓さんも僕に合わせてか、地面に座って笑い続ける。そのまま僕らは、何がおかしいのか分からぬまま、笑い声を上げ続けた。

 現実を生きる中で、次第に笑顔を忘れた僕。それを思い出させたのは、『重力制御の超能力者』という非現実的な女の子だった。


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